キヤノンサイエンスラボ 光って何?

これまで情報表示装置(ディスプレイ)として、最も広く使われてきたのは「ブラウン管テレビ」でした。最近では「液晶ディスプレイ」が急速に普及してきています。特に液晶は、テレビだけでなく、携帯電話、モバイル機器、ノートパソコン、ゲーム機、デジタルカメラ、カーナビ……と、多方面で活躍しています。このブラウン管と液晶、ふたつの装置は、見かけと働きはよく似ていますが、構造や原理はまったく違うものです。両方の働きを理解しましょう。

詳しく見てみよう
テレビのブラウン管は電子線で光る

テレビのブラウン管は内部が真空のガラス管です。画面の内側には光の3原色、それぞれが青、緑、赤の光を出す蛍光体が小さな点として塗ってあり、この点が電子線を受けて光り、画像となるのです。電子線は、電極にマイナスの電圧をかけると飛び出す電子の性質を利用して作ります。電源部分(電子銃)から出た電子は、蛍光体に衝突して発光します。また、電子線は、磁場がかかっている「偏向コイル」で自在に曲げられるようになっています。ブラウン管テレビでは、電子線が走査するライン(走査線)は525本あり、1秒間に60回の割合で偶数番目の走査線と奇数番目の走査線を書きかえています。つまり、高速に書きかえられる3原色の点々の光り具合を、私たちは連続の画として認識しているわけです。このブラウン管テレビは、電子を放出するために高い電圧が必要で、電子銃などの装置が大きく重いのが欠点です。電子線が大きな画面を走査するために距離が必要で、薄型にも限界があります。

液晶とは「液体結晶」のことだった

どんどん日常生活に入り込んでいる液晶ディスプレイですが、そもそも「液晶」とは何なのでしょうか。液晶とは、「液体結晶」の略です。「固体と液体の中間状態の物質」です。身近なところではイカスミや石けん水のようなものです。液晶ディスプレイとは、そんな液体結晶をはさみ込んだ装置なのです。液晶が発見されたのは、1888年。ライニッツア(オーストリアの植物学者・1857-1927)が「コレステロールの安息香酸エステル」という物質を観察していた際、この物質が14℃で固体から白濁した流動体(液晶)に、179℃で透明な液体にと、2段階の変化を経ることを見つけました。こうした状態の変化は、物質の分子の並び方の変化であることが後にわかりました。液体のとき、分子は流動し、バラバラに存在する状態です。固体になると、分子に流動性はなくなり、整然と配列します。液晶状態では分子はゆるやかに規則性をもって並んでいます。液晶ディスプレイでは、この液晶の特質を利用しています。

液晶ディスプレイは、液晶が光を透過したり、遮断したりすることで表示します。常温で分子が規則的に並び、電圧に敏感に反応して配列方向を変化するような液晶でないと、ディスプレイには向きません。液晶の分子は棒のような形をしています。簡単な話が、棒を横にして並べると下からの光は通しませんが、立てて並べると通るようになります。その中間の明るさは棒の傾斜具合で決まります。この棒の立ち方を電圧で制御しているというのが、液晶ディスプレイの基本原理です。

液晶ディスプレイはサンドイッチ構造

液晶ディスプレイの構造は、液晶をはさみ込んだ2枚の透明板と、一方向のみの光を通す「偏光フィルター」の組み合わせです。光源は、ディスプレイの背後にあるランプ(直視するディスプレイでは蛍光ランプが主流)です。電卓や時計では「反射板」を使い、自然光で見えるものもあります。光源から出た光は偏光フィルターで一方向にそろえられるので、液晶の分子配列によって、液晶を通り抜けるか、抜けないかが決まっています。この構造によって、電圧のオン・オフで白と黒を表現することができます。ここに青、緑、赤のフィルターを組み合わせると、カラー表示も可能になります。

もう少しくわしく実際の液晶ディスプレイの構造を見てみましょう。液晶をはさんでいる板には、溝がつけられています。溝にそって液晶の分子が並ぶように作ってあるのです。この2枚の板で液晶をはさむとき、溝の向きを90度交差させると、分子も90度交差した向き、ねじれた状態で並びます。ここに偏向フィルターを通した光を通すと、光も90度ねじれて通っていきます。液晶は電圧で分子の並び方向が変わりますから、電圧をかけると分子は電界にそって並び、分子のねじれがとれ、光は直進します。直進した光はもう一枚の偏向フィルターでさえぎられますから、光は通りません。これが「TN型」といわれる液晶ディスプレイの原理です。「STN型」では、ねじれの角度が120度以上になっています。

液晶ディスプレイのこれまで

実は、液晶ディスプレイが実用化されはじめたのは、そんなに古いことではありません。ライニッツアの発見後、ふたたび液晶が注目されたのは、1960年代になってからです。63年にアメリカのRCA社のウィリアムズが液晶に電圧をかけると光の通り方が変化することを発見、68年に同社ハイルマイヤーがこの性質を応用した表示装置を作りました。商用化は78年です。このように開発にブランクがあったのは、液晶ディスプレイには半導体電子工学の進歩が必要だったからです。液晶で複雑な図形などを描くには、画面に微細なマス目(「画素」といいます)のひとつひとつにオン・オフする電極を付け、光を通す、通さないをコントロールしなくてはなりません。カラー化するには画素にフィルターの装着も必要です。きれいな絵を表示する何万画素ものディスプレイを実現するには、半導体集積回路技術で使われるフォトリソグラフィ(光微細加工技術)の応用がなければなかったのです。

いろいろな方式のディスプレイ(プラズマディスプレイ)

液晶ディスプレイは大型化が進み、40型を超える大画面テレビが一般に普及するようになっています。80型を超えるものも実用化されるようになってきました。
液晶ディスプレイのように、薄型で大画面を実現するフラットパネルディスプレイ(FPD)には、プラズマディスプレイもあります。プラズマディスプレイは、放電現象で光る蛍光灯の原理を応用しています。
プラズマディスプレイのパネルのセルには、キセノンなどの希ガス元素が封入されています。セルに形成されている電極に電流が流れて電子が放出されると、気体の原子と衝突、原子核から電子が離れて不安定な励起状態が起こります。励起状態からもとの基底状態に戻ろうとするとき、エネルギーが光となって出てきます。
この光は紫外線なので、白色光ではありません。パネルの各セルは3つに区切られていて、RGBの3色にそれぞれ発光する蛍光体が塗られています。蛍光体が発色して、カラー表示される仕組みです。色の調整は光の強さで行い、RGB3色が均一に発光すると白になります。RGBが光らないと黒になります。

いろいろな方式のディスプレイ(有機EL)

ディスプレイの発光原理は、方式によってそれぞれです。液晶ディスプレイは、利用材料(液晶)とは別にバックライトの白色光源が必要です。ブラウン管は、加速させた電子を利用して光らせます。プラズマディスプレイは、放電による紫外線を使います。LEDのように、性質の異なる材料の組み合わせに電流を流してRGBの3色を発光することができれば、わずかな電気エネルギーで素子が自発光するディスプレイができるかもしれません。
自発光型ディスプレイとして期待されているのが、有機EL(Organic Light Emitting Diode:OLED)ディスプレイです。材料には「有機化合物」を使います。有機化合物とは、炭素(C)を含む化合物全般(CO、CO2などは除く)のことで、身近な有機化合物の代表にはプラスチックがあります。有機化合物以外の無機化合物を材料にして無機ELディスプレイもできますが、直流では長時間安定動作できないため、現在は、直流低電圧で駆動できる材料が見つかっている有機ELディスプレイの実用化が始まっています。

有機ELディスプレイの構造は、下図のようになっています。両端の電極(マイナス極・プラス極)に電圧をかけると、マイナス極から出る電子は電子輸送層の分子によって、発光層に注入されます。一方プラス極の側からは、電子が抜け出した“穴”である「正孔(せいこう)」が正孔輸送層の分子によって発光層に注入されます。発光層では、電子と正孔が再結合して励起状態となり、もとの基底状態に戻るとき、光が発生します。発光する色は、材料に使われている物質が発する光の波長によって決まります。
有機ELディスプレイの材料には、さまざまな物質が試されてきました。現在、携帯電話などの小型ディスプレイや一部テレビでの実用化が始まり、平面照明という新たな照明器具として商品化されています。大画面・フレキシブルなディスプレイへの対応を視野に、材料や製造方法の探求が盛んに行われているところです。