日本の色いろいろ

「けれどもあの透(す)きとおるような海の藍色(あいいろ)と、白い帆前船(ほまえせん)などの水際(みずぎわ)近くに塗(ぬ)ってある洋紅色(ようこうしょく) とは、僕(ぼく)の持っている絵具(えのぐ)ではどうしてもうまく出せませんでした。」有島武郎(ありしまたけお)『一房の葡萄(ひとふさのぶどう)』より

藍色(あいいろ)は、日本人にとって、いちばんなじみやすい色なのかもしれません。
藍色(あいいろ)は、葉に藍(あい)の色素をふくむ草や木で染められます。うすい藍色(あいいろ)からこい藍色(あいいろ)まで、さまざまなバリエーションの藍色(あいいろ)が作られます。手軽に広く用いられながら、自然を映す深遠な色、それが藍色(あいいろ)です。
江戸時代、日本では『藍染(あいぞめ)』が盛んになり、各地の村々には『紺屋(こうや)』といわれる藍染(あいぞめ)専門の染物屋ができました。藍色(あいいろ)の衣類は、しょ民から武士、大名、将軍まで愛用されたといいます。リーズナブルな日常着として、はば広く活用されました。 明治時代になって開国した日本にやってきた外国人は、日本中にあふれる藍色(あいいろ)におどろき、藍色(あいいろ)をエキゾチックな特別な色に感じて、『ジャパン・ブルー(Japan-Blue)』と名付けました。

タデアイで染められる藍色(あいいろ)

日本では藍染(あいぞめ)に「タデアイ」という草が使われてきました。ことわざの「蓼(たで)食う虫も好き好き」(からいタデを好んで食べる虫もいるように人の好みもさまざま、という意味)に出てくるタデ科の草の一種が、タデアイです。タデアイはじょうぶな草でよく育ち、春に種をまくと夏に1メートルほどになります。青々(あおあお)とした葉をかり取り、刻み、かめ(甕:大きなとう器)に水や灰などといっしょに入れて発こうさせ、染液にします。いまも各地に残る『紺屋(こうや)』では、この方法で一年中藍色(あいいろ)を染めています。また、夏限定でタデアイの生葉で染液を作ることもできます。『生葉染め』では夏らしい涼しげなうすい藍色(あいいろ)が出せます。

タデアイの葉

タデアイの葉。タデアイは湿地(しっち)を好むので、江戸時代は河川流域に多く植えられた(徳島の吉野川流域など)

江戸時代の藍染のはっぴ

江戸時代の藍染(あいぞめ)のはっぴ。職人や商人の仕事着として使用された

英語の藍色(あいいろ)『インディゴ・ブルー』

英語では藍色(あいいろ)を『インディゴ・ブルー(Indigo-Blue)』といいます。インディゴ・ブルーは、「インドアイ」という木の葉の色素で染められます。藍染(あいぞめ)は日本だけでなく、各地で古来から行われてきました。使用する植物には、藍(あい)の色素を持ち、その土地で生育しやすいものが選ばれてきたようです。それぞれの植物の色素は同じです。だから、実はジャパン・ブルーも特別な色ではなく、インディゴ・ブルーと同じ色だと言えます。藍色(あいいろ)は、世界各地で人々が身近な植物から作り出して親しんできた色なのです。

インドアイ

インドアイはマメ科の低木。インド、インドネシア、アフリカ西部などで栽培(さいばい)されている

ジーンズの藍色(あいいろ)

いま、最も身近な藍色(あいいろ)の衣類といえば、ジーンズでしょう。ジーンズは、じょうぶな木綿布を、化学的に作られた『合成藍(ごうせいあい)』で染めて作られます。合成藍(ごうせいあい)は、産業革命後のヨーロッパで発明されました。インドアイを化学的に分せき、石炭のコールタールから合成されたそうです。天然のインドアイには独特のにおいがあり、毒ヘビや毒虫を遠ざける効果があったのですが、合成藍(ごうせいあい)にはそれがありません。開たく時代にアメリカで、労働者の作業着として作られ始めて世界中に広がったジーンズは、最初、毒ヘビ・毒虫除けの効果を得る目的でインディゴ・ブルーに染められました。しかし、ジーンズは合成藍(ごうせいあい)で染められているので、天然染料のような効果はないというのが、実際のところです。

ジーンズ

アメリカの開たく時代にはじょうぶなズボンが必要とされた。最初のジーンズはテントの生地で作られたそう

「出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ)」という故事成語

「青は藍(あい)より出でて藍(あい)より青し」ということわざを聞いたことがありますか?意味は「藍草(あいぐさ)からとった青色は、藍草(あいぐさ)そのものの色よりすぐれる」で、「弟子が先生よりもすぐれること」にたとえます。このことわざは「出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ)」という故事成語にもなっていて、もとは中国の古典書『荀子(じゅんし)』にあります。荀子(じゅんし)は、中国の戦国時代(紀元前403~前221年)末期に活躍(かつやく)した儒学者(じゅがくしゃ)でした。このことから、中国では古くから藍染(あいぞめ)の技術が完成していたことがわかります。

荀子

荀子(じゅんし)は、人間の本性を悪とする「性悪説」を説き、悪で生まれるがゆえに後天的努力をおこたってはいけないと教えた。『中国の思想IV 荀子(じゅんし)』(杉本達夫訳/徳間書店)

藍色 あおいろ Japan-Blue

監修者(かんしゅうしゃ)
吉岡 幸雄先生について

吉岡 幸雄(よしおか・ゆきお)

吉岡 幸雄(よしおか・ゆきお) 1946年京都生まれ。早稲田大学卒業後、美術図書出版社「紫紅社(しこうしゃ)」を設立。日本の伝統色や染織史(せんしょくし)の研究を行ってきた。88年生家「染司よしおか()」5代目を継承(けいしょう)。最近では、海外で展示会や講演をする機会も多く、日本の伝統色のすばらしさを世界に広めている。

江戸時代から続く京都の染屋。昔ながらの「植物染」を伝える工房(こうぼう)で、製品は東大寺、薬師寺などの伝統行事にも役立てられている。

■著書
『日本の色を染める』(岩波新書)
『日本の色辞典』(紫紅社・しこうしゃ)
『京都の意匠(いしょう)1』
『京都の意匠(いしょう)2』(建築資料研究社)
など多数

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