ネットワークカメラ 「VB-R11VE」の
開発秘話

屋内外の監視をはじめ、さまざまな用途での活用が期待されているネットワークカメラ。キヤノン初の360°旋回・全天候型屋外モデルに秘められた最先端技術、そして未来の可能性とは?
開発に携わった4人の技術者が、熱い思いを語ります。

POINT 1

過酷な環境に耐える、
タフさの秘密

「VB-R11VE」は、キヤノンとして初めて屋外・全天候に対応した、360°ドーム旋回型ネットワークカメラだ。-50℃から+55℃までの激しい寒暖差や、一定の破壊行為にも耐えられる強靱な性能は、いかにして実現されたのか?

堀井 博之(ほりい ひろゆき)

専門の技術領域:電気設計

ネットワークカメラ「VB-R11VE」は、どういう用途を想定して企画されたのでしょう?

堀井博之
VB-R11VEは、駐車場など屋外の広い場所で使うことを想定した、360°フル旋回、全天候型のハイエンドモデルという位置づけです。屋外で使うためには幅広い温度変化にも耐えなくてはなりませんし、できるだけ遠くまで撮影するために高倍率のズームレンズも必要。キヤノンですから高画質であることは当然であり、さらに、暗いところでもきれいに撮影できるよう業界最高水準の低照度性能も備えること。これが、VB-R11VEの目指すコンセプトになりました。

佐々木 大輔(ささき だいすけ)

専門の技術領域:メカ設計

円錐形のユニークな形状が印象的です。

佐々木大輔
円錐形になっているのは、雨や風をより受け流せるようにイメージされたものです。また、円錐形の上部にはアール(角の丸め)を付けて、周囲の空間に馴染むデザインになっています。

動作温度範囲が-50℃から55℃までと、非常に広いですね。これだけの温度変化に耐えるように設計するのは大変だったのではないですか?

佐々木
ここまで温度範囲の広い製品を手がけたことはありませんでしたから、試行錯誤の連続でした。

まず温度変化に対応するため、白いサンシェードの内側はアルミダイカストとモールド(樹脂)の二重構造になっています。温度が高い時は、アルミダイカストとモールドの間に風を通し、さらにサンシェードの通気口から放熱する構造にしました。寒い時はヒーターを使ってモールドの内部だけを温めて断熱する構造になっています。

結露でレンズが曇ってしまうということはありませんか?

佐々木
スキーのゴーグルなどと同じように、製品の内部では常に空気を循環させ、ドーム部分にも空気を送るようにして結露を防いでいます。ヒーターでどれくらいの温風を作るのか、ドームと内側のインナーカバー(黒い部分)との隙間にどう風を流すのか。いろいろな要素を試行錯誤で調整して、ドーム全体が曇らないようにするのはなかなか大変でした。

耐衝撃性能も実現されているんですよね。

[IK10] 40cmの高さから落ちる5kgの物体の衝撃に耐える。

佐々木
高さ40cmから5kgの物体が落下しても耐えられる「IK10」という基準を達成しています。

IK10の試験では、ドーム部分も含めて製品のあらゆる箇所に5kgの鉄球を落とされるので、これに耐えられるようにしないといけません。一般的な監視カメラだと、衝撃に耐えられるようにドーム部分は厚めになっていますが、VB-R11VEでは画質を高めるため、ドーム部分をあえて薄い仕様にしています。ドーム素材は柔軟性の高いポリカーボネイトなので変形するだけなのですが、そのままだと内部のカメラに衝撃が伝わってしまいます。そこで、ドーム内側のインナーカバー(黒い部分)で衝撃を吸収する構造を採用しました。

実をいうと、開発の途中で、アメリカでの販売を担当するシステムインテグレーターから、アメリカは日本ほど治安がよくないので、アメリカで売るためには「バンダル」(耐衝撃性能)が必須だという意見が出てきたんです。こうした過酷な状況にも耐えうる製品が、世界市場では求められていることがわかってきたため、当初の設計を大幅に変更して何とか対応しました。

  • IK:CE(ヨーロッパ規格)EN50102に準じた電子機器に対する外部からの耐衝撃保護に関する規格。

POINT 2

狙った位置でぴたりと止まる、
制御技術の妙

「VB-R11VE」は、450°を1秒で回転する高速性と、光学30倍ズームを始めとする高精度の撮影性能を両立させている。これまでキヤノンが蓄積してきた、光学センサーや緻密なモーター制御のノウハウがVB-R11VEに結実している。

千野 俊介(ちの しゅんすけ)

専門の技術領域:ファームウェア開発

360°フル旋回を実現するために、どのような仕組みが使われているのでしょう?

千野俊介
360°でなければレンズやCMOSなどの撮像部分とその他の部分をケーブルで接続すればよいのですが、360°フル旋回するとなるとケーブルがねじれてしまいます。そこで、今回はスリップリングという機構を採用しました。これは、回転するスリップリングに固定されたブラシが接触している構造になっています。

撮像部分が回転するとスリップリングとブラシの間には摩擦が発生しますから、耐久性は入念にテストを繰り返しました。例えば、撮像部分は目標耐久回数の倍以上回転させても性能的に問題が起きないことを検証しています。

たんにレンズが回転するだけでなく、すばやく、かつ狙った位置で正確に止まらないといけないわけですね。

千野
パン(カメラを横方向に動かすこと)については、1秒間で450°回転します。高い加速度で速度を増減することで、目的の位置への到達時間が短くなるようにしました。また、狙った位置にぴたりと止まるように、キヤノン製のSRエンコーダーを使っています。これは刻んであるパターンを高精度に読み取って位置を検出する、一種のセンサーです。SRエンコーダーによって、極めて高精度にカメラの位置合わせをすることが可能になりました。

ズーム倍率も30倍と高くなっています。

千野
30倍の光学ズーム機能を備えたことで、60m先にいる人物の顔もはっきり識別できます。

30倍の光学ズームでありながら、広角端では58.4°という広い視野角を両立するため、カメラの制御にはかなり苦労しました。フォーカスレンズ※1とズームレンズ※2の位置の制御を精密に行わないと、ズームインやズームアウトした時にフォーカスが合わなくなってしまいます。ズームする際のモーターの加減速はもちろん、外側のドームとレンズとの位置関係によってもフォーカスレンズのピントの合う位置が微妙に変わるので、レンズ、メカ設計者と一緒にシミュレーションと実機での確認を繰り返し、ドーム付きでの高倍率と高性能を両立させたズーム性能を実現しました。

また、ズーム倍率も高くパン速度も速いため、単純にカメラをズームやパンするだけだと、画面を見ているユーザーはカクカクと動いているような違和感を感じてしまいます。そこで、パンチルトの駆動方法については、高速かつ高精度の両立の実現のためにモ―タ―の加減速も工夫し、滑らかにカメラが動いているように感じられるようにしました。

ドームの角度、レンズの姿勢、加減速、その他の要素をすべて考慮した上で、30倍のズームやパンがスムーズに行えるように制御を行っています。

  • ※1
    フォーカスレンズ:ピントを合わせるのに使用するレンズ
  • ※2
    ズームレンズ:画角を変更するのに使用するレンズ

暗がりでも撮影できるよう、低照度性能にも注力されたそうですね。

千野
カラー撮影時で0.03ルクスという暗い環境でも撮影が可能です。低照度性能は、レンズ、CMOSセンサー、そして画像処理を組み合わせることで実現できました。

まずレンズですが、ワイドでのF値が1.4というかなり明るいものを採用しました。Fナンバーを明るくするには光量を多く取り入れる必要があるため、レンズ径が大きくなってしまいます。また、レンズ径が大きくなると収差も増大してしまい、解像力を劣化させる要因となるため、高精度非球面レンズや高屈折率ガラスを使用することで大口径化と小型化、高性能化の両立を達成しています。

CMOSセンサーについては、ノイズ特性を考慮し、最適なセンサーを選定しました。さらに、これまで培ってきた技術を駆使し、そのノイズ特性に応じた補正処理をかけることで、センサーの性能を最大限に発揮できるようにしています。

最後に画像処理ですが、キヤノンがデジタルカメラやビデオカメラやの開発で培った技術を活かした絵作りを行っています。その上で監視カメラ用として、鮮鋭感とコントラスト、ノイズのバランスを調整しています。また、かすみ補正など新たに生み出された技術も搭載しています。

  • F値:レンズの口径を焦点距離で割った数値の逆数のことを指し、レンズの明るさを示す指標として用いられる。数値が小さいほど明るく、薄暗い場所での撮影に強いレンズといえる。

POINT 3

インテリジェント化する
ネットワークカメラ

VB-R11VEは、悲鳴検知や対象の自動追尾など、9種類のインテリジェント機能を搭載する。画像解析を始めとするソフトウエア面も、開発者の膨大な試行錯誤の上に成り立っている。

  • 動体検知、置き去り検知、持ち去り検知、いたずら検知、通過検知、侵入検知、自動追尾、音量検知、悲鳴検知を搭載。

VB-R11VEでは、悲鳴検知や対象の自動追尾といったインテリジェント機能が搭載されていますが、開発で苦労された点はありますか?

千野
悲鳴検知は初搭載の機能でしたので、まずは男女別、シチュエーション別に社内外でデータを収集するところから始めました。音声研究用のデータライブラリも利用していますが、やはり実際に実験しなければわからない部分もあります。そこで、社内の人間に悲鳴を上げてもらい、そのデータを解析するということもやりました。また、騒々しい場所などでもデータを集め、雑音の中からでも悲鳴を検知できるようにしています。

自動追尾機能で大変だったのは、ズーム機能との兼ね合いですね。カメラを細かく動かしすぎると画面を見ているユーザーは目が回ってしまう。被写体がどれだけ移動したら、どれくらいズーム、パンして追尾するのか、このあたりのバランスは何度も検討を重ねました。

インテリジェント機能「自動追尾」

木村 匠(きむら たくみ)

専門の技術領域:ソフトウエア開発

ネットワークカメラはハードウエアだけでなく、モニタリングや録画アプリケーションも含めた使い勝手が重要なポイントになっています。

木村匠
360°フル旋回ができるVB-R11VEのメリットを活かすには、見たい位置にすばやくカメラを動かせる、使いやすいユーザーインターフェイスが欠かせません。そこで、今回ビューワーアプリケーションに搭載したのが、ドラッグムーブとエリアズームという機能です。

ドラッグムーブというのは、映像上でドラッグして矢印を引くとその矢印の方向にカメラが動くという機能で、引いた矢印の長さによって速度が変わるようになっています。この機能を開発するために、実際の歩行者や自動車を撮影し、ユーザーが画面上で対象物を追尾しやすいようバランス調整を繰り返しました。

エリアズームというのは、画面に表示されている任意のエリアをドラッグして囲むと、カメラが自動的にズームやパンを行い、そのエリアを拡大表示するという機能です。どの方向にどれくらいカメラを動かすのかをユーザーが考えることなく、直感的かつ即座に見たいエリアをズームインして画面に映し出すことができます。また、右下から左上にドラッグすると、ズームアウトするように工夫しました。特定のエリアにズームインしたあと、その周りの状況をすぐズームアウトして確認することができます。

ドラッグムーブ:画面上でマウスをドラッグした「方向」と「長さ」で、パン/チルトの「方向」と「スピード」を自在に操ることが可能。 エリアズーム:ナンバープレートや不審物など、フォーカスしたいポイントをドラッグで囲むだけで、カメラがパン/チルト/ズームを自動で行い、瞬時にアングルを合わせることが可能。

「ドラックムーブ」と「エリアズーム」の紹介映像をご覧いただけます。

POINT 4

IoTとの融合で広がる
ネットワークカメラの可能性

今話題のIoT(Internet of Things)とはデバイス同士がつながりあって、自律的に通信を行うことを指す。ネットワークカメラもIoTを構成する一要素となって、社会を豊かにするソリューションを作り出していく。

ネットワークカメラの用途は、今後はどのような分野に広がっていくと考えていますか?

木村
まず、従来の主用途である監視について、急速に需要が高まっています。最近は、監視カメラの映像が犯人の特定や事件解決につながるという事例が増えてきました。大型スポーツイベントの開催も控えていますし、テロ対策や食品への異物混入防止など、セキュリティ分野ではさらにネットワークカメラの活用が進むことになるでしょう。そのほか、例えば、マーケティング用途を想定して、人数のカウントや、人が移動する軌跡の検出、行列待ち時間の推定といった機能の開発を進めています。こうした機能とビッグデータ解析は、今後密接に組み合わさっていくことになるでしょう。

堀井
カメラ側のインテリジェントな機能も、さらに強化していくことになりますね。人や物体の動き、人数などをカメラ側で認識し、それらのデータを映像とともにサーバーへと送信するわけです。もちろん、サーバー側で画像解析を行うことは可能ですが、カメラの台数が増えてくると、サーバーの負担も膨大になってきますから。

ネットワークカメラの可能性、面白さについて、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

堀井
私達の所属する部署NVS事業推進本部のNVSとは、「ネットワークビジュアルソリューションズ」の略です。以前は、ネットワークカメラというモノを作っていたわけですが、今は映像を使って、さまざまなソリューションを生み出すことを目標にしています。

木村
画像解析とネットワークを組み合わせれば、アイデア次第で何でもできると思いますよ。カメラ以外のいろんなセンサーと連携することで、マーケティングやヘルスケアなど、広い分野への応用も可能になります。

大事なのはカメラ技術だけでなく、技術を組み合わせてどういうソリューションを生み出せるかどうかということなんですね。

千野
デバイス同士がつながるIoTが話題になっていますが、ネットワークカメラもその他のセンサーなどとともにIoTの構成要素になっていくはずです。将来的には、犯罪の未然防止やマーケティング用途のほか、より付加価値の高いソリューションの実現も考えられるでしょう。市場としてはまだまだ発展途上であり、自分たちでこれから作り上げることができる産業だと思います。

エレクトロニクス産業の中でも、ネットワークカメラは急成長著しい分野として注目を集めている。これまでネットワークカメラといえば犯罪や事故を防止する監視カメラとしての役割が大きかったが、今後はそうした需要に加えて、マーケティングやヘルスケア、農業などでの活用が期待されている。

例えば、マーケティング分野であれば、どういった顧客がどの商品を手に取っているかビッグデータ解析を行うことで、より訴求力の高い販売や製品開発につなげることもできるだろう。

リアルな世界の状況をデジタルデータとして取り扱うことができるようになれば、今は想像もつかないサービスも次々に登場してくるはずだ。ネットワークカメラが、ドローンやロボットの「目」となって活躍することも、もはや夢物語ではない。

屋外の過酷な環境でも使える「VB-R11VE」は、リアルとネットが融合した新しい世界の可能性を感じさせてくれる。

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インタビュアー・構成
山路 達也(やまじ たつや)
1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『アップル、グーグルが神になる日』(共著)、『新しい超伝導入門』、『Googleの72時間』(共著)、『弾言』(共著)など。

今回の「語る」開発者

堀井 博之(ほりい ひろゆき)

専門の技術領域:
電気設計

千野 俊介(ちの しゅんすけ)

専門の技術領域:
ファームウェア開発

佐々木 大輔(ささき だいすけ)

専門の技術領域:
メカ設計

木村 匠(きむら たくみ)

専門の技術領域:
ソフトウエア開発

開発者が語る バックナンバー

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