業務用フォトプリンター 「DreamLabo 5000」の
開発秘話

高画質と高生産性を両立させた「DramLabo 5000」

POINT 1

高画質・高速出力の長尺ヘッドを開発

高画質の画像を高速で連続印刷する難しさ

キヤノンは、コンシューマー向けはもちろん、大判などビジネス用の分野でもインクジェットプリンターに大きな実績を残してきました。しかし、新開発のDreamLabo 5000は新規参入の分野です。製品として成り立たせるには、どのような条件があったのでしょうか?

池田
リテイルフォト業界※1などで使われる業務用のフォトプリンターですから、高画質と高生産性を両立させることが必須の条件でした。高画質では、従来の銀塩写真に匹敵する写真出力と高精細な文字印刷ができること。高生産性については、印刷が速いことと機械が止まらないことですね。

山田
長年にわたる「FINE」※2の技術の蓄積があるとはいえ、高画質の画像を高速で印刷するのはそう簡単ではありません。キヤノンとしては初めて挑む技術水準でした。

開発プロジェクトの期間と規模はどのくらいですか?

勅使川原
具体的な数字は言えませんが、これまで私が携わってきたコンシューマー製品と比べると期間、規模ともに比較にならないレベルです。それだけ新しいモノをつくるということは、パワーが必要なわけです。

勅使川原 稔(てしがわら みのる)

開発担当分野:印字プロセス

開発にあたって想定された最大の課題は?

DreamLabo 5000のプリントヘッド

勅使川原
それはもちろん、「ワンパス印刷」を実現するプリントヘッドの開発です。生産性を高めるためにロール紙を使い、紙の通過が1回で済む「ワンパス印刷」にする。つまり、連続して搬送されるロール紙にヘッドを固定したまま高画質のフォト印刷を続けるために、これまでにない長尺タイプのヘッドが必要で、大きな課題でした。

広沢
具体的には、従来よりも高密度にノズルを配置したヘッドの最大印刷幅を305㎜にするという仕様でした。従来のインクジェットプリンターはヘッドを移動させながら印刷することで、さまざまな画質を高める工夫をほどこせるんですが、今回のDreamLabo 5000のヘッドは固定式です。ヘッドの性能そのもので画質が決まるわけで、だから、開発難度が高いんです。

なるほど。ということは、用紙の安定搬送や印刷データの高速処理など、ほとんどすべての面でヘッドの高性能さを引き出す、あるいは支えるための難しさがあったのでは?

渡邊
その通りです。搭載したセンサーとモーターの個数、回路と配線のボリュームなどは、キヤノンのコンシューマー向けインクジェットプリンターと比べて2ケタも違います。試作機のメカトロ部を検証するためにつくった制御用基板の総面積は4畳半くらいありました(笑)。

勅使川原
あれを見せられたときは内心、この開発は頓挫すると思いました(笑)。とても本体に入るボリュームじゃない。予想外のハードルでしたね。

それだけ大量のものを本体内に収められる自信が、渡邊さんにはあったんですか?

渡邊
自信があるとかないとかではなくて、ただやらねばという一心でした。「この開発は無理かも」という他のチームの感想を聞いたのはずっと後になってからのことで、われわれ電気設計チームが意気消沈してはまずいと気づかってくれたようです(笑)。

  • ※1
    リテイルフォト業界
    店頭やWEBサイトから受注し、写真のプリントやアルバムの制作を請け負う業界。
  • ※2
    FINE(Full-photolithography Inkjet Nozzle Engineering)
    キヤノン独自のインクジェットプリントの基幹技術。

高性能の長尺ヘッドはどのようにして開発されたのか?

では、今回の開発の肝心要だったプリントヘッドについて伺います。ノズルの密度はどのくらい高めたんですか?

広沢
各色のヘッドノズル数は、キヤノンのコンシューマー向けプリンターの約100倍相当まで高めており、このようなヘッドが7色分、搭載されています。

すごいですね。従来のFINEと原理も駆動方式も根本的には変えずにそこまで高密度にできたのは、チップの生産技術がそれだけ進歩したということですか?

広沢
そういっていいと思います。10年間のFINE開発・生産の集大成ですからね。またもう一つ、ヘッドの生産技術の点でいえば、インク吐出の均一性を図るのが大きな課題でした。ノズルごと、チップごとにバラツキが出ないこと。チップをヘッドの土台に貼り合わせたとき、ズレが出ないこと。これらを一定以上の精度で生産できなければ、仕様にかなった画質は得られないんです。

広沢 稔明(ひろさわ としあき)

開発担当分野:インクジェットヘッドモジュール

勅使川原
実は、それほど高性能のヘッドができたとしても、ヘッドを動作させたときの環境が整っていないと、きれいな印刷にはならないんですよ。

どういうことですか?

勅使川原
決められた通りの量と強さで安定してインクを吐出させるには、ヘッド内部の温度とヘッド周辺の湿度を最適に保つ必要があるんです。そのため、ヘッドに供給するインクの温度や、ヘッド部の空気の状態を調節しています。

中尾
先ほどセンサーやモーターが多く、一般的なプリンターと比べ配線は膨大だという話が出ましたが、これはヘッドを的確な環境に保って印刷する工夫を随所に取り入れた結果なんです。全体をコントロールするファームウェアにおいても、ヘッド環境を最適にする制御系だけでも、開発の比重が結構ありましたからね。

DreamLaboでは、画数の多い小さな文字もつぶれずに印字されますね。ヘッドに何か工夫を加えたんですか?

広沢
ノズルやヘッドに特別なことをしたのではありません。ノズルから吐出するインク滴の主滴の着弾位置に、主滴から分離して形成されるサテライト滴と呼ばれる小さい液滴が落ちるようにしたんです。

勅使川原
一般的に液体インクを用いたインクジェット方式では、インクを吐出するごとに主滴とは別にサテライト滴が出ているんですよ。原理上の宿命なんです。これまではサテライト滴が主滴と微妙にズレて着弾し、ドットの形状が崩れることがありました。この画質上の弊害を、DreamLabo 5000ではほとんどゼロにできたんです。だから、3ポイントの文字でもきれいに表現できます。

どのようにして弊害を克服したんですか?

広沢
主滴とサテライト滴の飛び出す時間差や方向、ヘッドと用紙の間の距離、インクの組成など関係し合う要素を総合的に検討し、着弾ドットが真円になるように調整したんです。

POINT 2

専用の紙とインクが安定して高画質を生み出す

数ミクロン単位で用紙の搬送をコントロールする!

プリントヘッドの高い性能を引き出して高画質を実現するためには、用紙の搬送にも高精度が要求されますね。

池田
ええ、そうです。用紙は、基本的に一定のスピードでヘッド部を通過するようになっています。用紙の厚さや表面状態などが違っても、搬送スピードが変わらないようにする技術は、そう簡単ではありません。さらに、搬送動作には誤差があるので、インク吐出のタイミングが微妙にズレてしまいます。この誤差を放置したままで7色を印刷すると、画質は自ずと悪くなります。そこで、一定の距離に対する誤差を測定して、インクの吐出を早めたり遅くしたりして調整する仕組みを加えました。

それは用紙読み取り専用のセンサーや誤差認識の装置ですか?

渡邊
そうです。搬送誤差だけでなく、用紙の伸び縮みも感知します。数ミクロン単位で誤差をとらえて、用紙搬送とインク吐出を調整するようにしました。

渡邊 昌彦(わたなべ まさひこ)

開発担当分野:電気回路および印字
画像読み取り装置

紙とインクというやわらかい物質を使っているのに、数ミクロン単位での調整ですか。すごい精度ですね。

渡邊
DreamLabo 5000に求められる高画質を安定して実現するには、そこまでやる必要があるという判断でした。

そうすると、専用のロール紙の開発も重要でしたね。

染料インク(インクジェット方式)の定着イメージ

加茂
高速印刷でも発色性を高めるため、インク受容層でインクを今まで以上にすばやく吸収することで、高速印字に対応しています。また、インク中の染料成分だけを紙の表面近くに定着させることで、安定して高画質を実現できるようにしました。

ということは、インク受容層で吸収できるインクの分量には自ずと上限があって、その上限以上にインクが用紙に落ちるとあふれてしまうんですか?

加茂
そうです。インクの吸収は、インク受容層の表面に無数にある細孔でインクを吸収し、受容層内の空隙でインクを受け止める仕組みです。このため、インク受容層の容量を超えた場合、吸収しきれないインクは表面にあふれてしまいます。しかし、DreamLabo 5000の専用用紙は、印字システムとベストマッチングになるように受容層を設計しています。このため、インクがあふれる様な心配をせずに、常に安定して高品質な画像を提供することが可能です。

加茂 久男(かも ひさお)

開発担当分野:専用用紙

勅使川原
完成品についての話を聞くととてもシンプルで簡単そうですが、メディアの性能を十分に引き出すインクも処方が重要で、試作を延々繰り返しましたよね。結局は両者のバランスをとった設計になるのですが、メディア、インクの両方の視点から、インクの吐出をもっと強くできないかと何度言われたことか(笑)。

山田
どの印刷方式にも当てはまることですが、インクジェットでは特に、用紙の性能が画質に直接影響します。どんなに高性能のヘッドと機構をつくっても、用紙が良くなかったら、画質は悪くなってしまいますからね。

その高画質なプリントが、耐久性もとても高いとか。

加茂
ええ。染料を表面近くに保持するため、酸化や光で劣化しやすいですから、堅牢性向上剤も入っています。それにより、アルバム保存なら約300年※1の耐久性が実現しました。

7色インクで銀塩写真を上回る色域

DreamLaboのインクはブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色にフォトシアン、フォトマゼンタ、グレーという薄い3色を加えた7色ですね。既存プリンターには12色というものもありますが、今回はなぜ7色になったのでしょうか?

山田
高速と高画質の両方を満たすベストバランスの色数だと判断したからです。三つの薄いインクは薄くて明るい色を再現するためのもので、画質を無視するのであれば、なくてもいい色です。誰もが知っている通り、基本的にカラー画像はブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色で再現可能。しかし、高速で4色印刷をすると、どうしても画質は悪くなり、業務用フォトプリンターのレベルではなくなってしまう。では逆に、7色よりも多くしたらどうなのか。確かに画質はもっと良くなりますが、その分本体の構成や制御もより大きなものとなり、販売価格にも影響します。このようにさまざまな視点で検討した結果、DreamLabo 5000では7色がベストと判断しました。

山田 顕季(やまだ あきとし)

開発担当分野:画像処理アルゴリズム

フォトシアンとフォトマゼンタが薄い明色で効果を発揮するのは想像できますが、グレーはぴんときません。どんな効果があるんですか?

勅使川原
一つには、モノクロ写真での階調が豊かになります。プリントのユーザーには写真のプロやセミプロも含まれますから、モノクロ写真の画質も確保しておく必要があると考えました。
もう一つには、4色の掛け合わせで出すグレーよりも色の再現性が安定することです。掛け合わせのグレーは、画像処理をしたときの4色のカラーバランスのズレによって赤みや青みが強く出てしまう場合があるんです。

山田
発色の原理からすると、インクジェットプリントは銀塩写真よりも広い色域を再現できると思います。今回、DreamLabo 5000の7色で印刷した写真の発色を測定したところ、やはり、いわゆるお店プリントと言われる一般的な銀塩写真よりも広い色域を再現できていることが確認できました※2。しかも、FINEの特徴である透明感に加え、暗部の重厚感も表現できるようになっています。
少し補足すると、銀塩写真の良さは、人間の記憶の中にある立体的重厚感の再現性、そういう色づくりができている点にあるんです。それで、今回の開発では、その部分を参考にしたカラー処理も行うようにしました。その結果、明部と暗部の両方に強い色表現力を持てたんです。

グレーインクの採用により、カラーバランスのズレが少なく、安定した色再現が可能
  • ※1
    アルバム保存性、耐光性、耐ガス性(オゾンガス)は、社団法人電子情報技術産業協会発行のデジタルカラー写真プリント画像保存性評価方法(JEITA CP-3901)の屋内耐熱性、屋内耐光性、屋内耐オゾン性および寿命判断基準に準じてキヤノンが算出した予測値である。
  • ※2
    キヤノン調べ

POINT 3

「止めない印刷」で高生産性を実現

印刷速度を維持するためにデータはすべて高速処理!

お客様が求める高生産性を実現するには、印刷速度が速いだけでなく、印刷作業が可能な限り停止しないようにする必要があります。それには、画像データの受信と処理も高速でなければいけませんね?

大木
私は、画像データをお客様の既存システムからDreamLabo 5000本体へ送り込むための接続システムの開発を担当しています。印刷速度は、開発当初からL判の写真を1分間に44枚という高速性を掲げていましたから、これを実現するスピードでデータを送り続けられるシステムにしなければなりませんでした。本体へはGBEther※1の有線LANでデータ転送しますが、印刷作業を途切らせないことが最も重要。このためGBEtherのLANで出せる最高のデータ転送スピードを追求しました。

大木 三雄(おおき みつお)

開発担当分野:外部接続アプリケーションシステム

デジタルカメラのデータサイズは大きくなる一方です。圧縮して送り、本体内で解凍するというわけにはいかないんですか?

大木
データ転送の観点では、DreamLabo 5000の高画質高速印刷の特徴を最大限生かすためのデータ圧縮方法と、お客様のラボ環境で確保できるLAN帯域の制限は、それぞれ切り離して考えることはできません。このため接続システムは複数の転送方式を採用し、ベストなロジックでのデータ転送をお客様が選択できる仕組みを用意しています。特に高画質で高速な印刷を考えると、圧縮・解凍は避けたいところですね。

なるほど。では、そのようにして送り込まれる膨大な画像データですが、本体内でも高速処理が必要ですね。そのための工夫がいろいろあったのでは?

中尾
ええ、それはもう、アイデアをたくさん盛り込みました。1ページを印刷する速度がいくら速くても、次のページの印刷までに待ち時間が発生したのでは元も子もありませんからね。たとえば、ものすごい勢いで入ってくる大量の画像データをまずは安定して受信するために、ハードウェアの並列化制御やデータ解析の高速化処理を行っています。その後に続けて高速画像処理を行うわけですが、データの流れが渋滞しないようにサーバークラスのプロセッサーを複数採用しています。シミュレーション検討を繰り返し行い、並列化処理の最適な方法を採用しました。仕様通りの連続印刷速度を確保するには、本体内部での受信からプリントヘッド動作までのデータ転送速度は、仕様を余裕でクリアできるレベルでなければいけませんから、正直、大変な開発でした。

処理するステップ数も多いんですか?

中尾
それは普通のプリンターと大差ありません。大きく分けると、受信、画像解析、画像処理、印刷指定、ビットマップ化、7色分解などのステップです。高画質になるほどデータ量が多く、負荷が増えて処理速度は遅くなります。高画質かつ高速処理を行うために各ステップでの処理速度と、ステップ間のデータ転送速度の両方を速めねばならないところが難しいわけです。

  • ※1
    GBEther
    ギガビットイーサネット。伝送速度が1Gbpsの高速なイーサネット規格の総称。

「紙切れなし」「インク切れなし」で長時間連続稼働

長時間の連続稼働で生産性を高めようとした場合、用紙切れとインク切れの問題を避けては通れません。この2点に対応するため、DreamLabo 5000は「ダブルペーパーマガジンシステム」と「ダブルインクタンクシステム」を採用したそうですね?

池田
ええ。ダブルペーパーマガジンシステムとは、1本のロール紙を使い終わったとき、別のマガジンに同じロール紙がセットされていれば、自動的に連続して印刷されるという仕組みのことです。お客様は、印刷作業を止めることなく、使い終わった方のマガジンに紙を補充します。その反復によって、用紙切れによる機械停止は発生しません。
また、オプションのデッキを装着すると、ロール紙を4本まで装填できますから、さらに長時間、手間要らずで稼動しますし、あるいは別の種類の紙を装填しておけば、マガジンの紙を入れ替えずに多彩な印刷作業が行えます。

ダブルペーパーマガジンシステム
ロール紙を2本装填できるため、印刷を続けたままロール紙の交換が可能。
オプションペーパーデッキを装着すれば、4本のロール紙が装填可能。

ロール紙の最後のところで印刷ページが途中だったら、どうなるんですか?

池田
認識装置を付けてあります。途中までで紙が終わったページを次のロール紙に最初から印刷し直すんです。

中尾
紙の入れ替えがなるべく少なくて済むように、同じ種類の紙で行う印刷を自動的にグループ化するソフトも入れてあります。

便利ですねえ。しかし、そのようにして長時間の連続印刷をしても、紙詰まりは起きないんですか?

加茂
今回開発したロール紙は詰まりにくい紙で、搬送へ悪い影響を与える用紙の変形が発生しないようにしてあります。

池田
もちろん、搬送のメカの方は紙詰まりさせないように常にコントロールしています。それでも詰まったときは、すぐ回復できるように、詰まった紙を切り出す手動カッターを数カ所設置しました。

なるほど、いざというときの備えも万全と。では、ダブルインクタンクシステムとはどのようなものですか?

池田
メインタンクとプリントヘッドの間にもう一つインクタンクを設けたんです。メインタンクが空になっても、中間のタンクにストックされたインクで印刷を継続します。その間にメインタンクを交換すれば、インク切れで印刷が止まることはないわけです。7色なので、インク切れによる時間のロスは軽視できませんからね。

ダブルインクタンクシステム
メインタンクを出たインクは、バッファータンクにいったんストックされ、そこからラインヘッドへと供給される。
この構造により、メインタンクが空になった場合でも、印刷を続けたままインク交換が可能。

ちなみに、どんな機械にもトラブルは付き物です。DreamLabo 5000は、メンテナンスによる停止時間をできるだけ短くすることで、高生産性に貢献するように設計されているそうですね。

池田
そうです。本体のパーツをなるべくユニット化し、ユニットごとレールを滑って引き出せるとか、ビスを外すだけで引っ張り上げられるとか、工夫した構造にしました。
その上で、お客様のところのオペレーターに、キヤノンのメンテナンス講習を受けてもらうという体制もつくりました。定期メンテナンスや消耗部品の交換などは、お客様自身ですぐに行えるわけです。これを「Easyメンテナンス設計」と呼んでいます。

池田 靖彦(いけだ やすひこ)

開発担当分野:紙搬送メカ

POINT 4

新規製品の開発に開発者集団が燃えた

難問続出だった大規模プロジェクト

今回の開発プロジェクトは長期間にわたっていて、開発に携わった人数も大勢です。振り返ってみれば、忘れがたいエピソードもあったのでは?
制御用基板の総面積が4畳半くらいあって、実現不可能な製品ではないかと密かにささやかれたというお話も冒頭で出ましたが。

中尾
私が担当した本体ファームウェアは、規模が大きいだけでなく、対象領域が多岐にわたっていました。それで、最初の1年間は実設計をしないと決めたんです。何をしたかというと、全体構成の検討です。技術的に成立するかどうかの裏付け取りに専念しました。採用する技術の実効性を確認し終えたところで一気に突っ走るというプランでした。ですから、「そろそろプログラムを書かせてくださいよ」と意気込むリーダーたちを、「まあ、もう少し待て」となだめたことが忘れられません。

中尾 宗樹(なかお むねき)

開発担当分野:本体コントロール
ファームウェア

池田
最初からそんな作戦を立てていたとは知らなかった(笑)。私の方は当初、試作装置がうまく動かなくて困り果てました。大規模な装置だから、いろいろなグループが入れ代わり立ち代わり面倒を見る感じでね。でも、結果的にはそれがよかった。だんだんと各グループが協働するようになって、先が見えてきたんです。開発チームとしての一体感が生まれたのも、そのおかげでしょうね。

大木
私が担当した接続システムの開発でも、最初は混乱しました。このプロジェクトでは、開発初期段階から全社の精鋭部隊の協力が得られたのですが、詳細検討が進むにつれて、関係チームのリーダー間協議が微妙にズレていくんです。話せば話すほどズレが大きくなる(笑)。ベクトル合わせが重要で、悩んで苦しんだ時期がありました。

それは、どうしてですか?

大木
今回開発した接続システムは、既存製品の「imagePRESS」※1にも「imagePROGRAF」※2にも共通して使えるソフトウェア構成を採用しています。ですから、開発時には二つの製品に詳しいソフト技術者もチームに参加していました。生半可な議論では満足できない精鋭のメンバーばかり(笑)。一つひとつの議論が、一気に細部まで突っ走るんです。そうすると、逆に意見や考えのズレがはっきりしてしまって、話がまとまらない。悶々としました。それで結局、基本設計を示すマスターピース図面を興して、社内関係者全員にOKしてもらったんです。その設計のため、会議室に鍵を掛けて朝から深夜まで数日閉じこもったんですよ。今、思い出すと懐かしい思い出です(笑)。

大規模開発プロジェクトの出だしでは、いろんなことがあるようですね。

勅使川原
私が鮮明に覚えているのは、試作機で初めて印刷したときのことです。インクがなかなか吐出されず、ボロボロの印刷結果でしたが、ようやく1枚目が出たときにメンバー全員が歓声を上げ、デモを行った会場に割れんばかりの拍手が鳴り響いた――。あのときこそ、夢が形になる第一歩だった気がするんです。

  • ※1
    imagePRESS
    ビジネス分野での多品種少量印刷などに適したキヤノンのデジタルプロダクションプリンター。
  • ※2
    imagePROGRAF
    ポスター印刷やCAD出力などに適したキヤノンの大判インクジェットプリンター。

情熱込めて開発した新規製品に自信あり!

そんなふうに四苦八苦して完成した新規製品がいよいよ世に出ます。どのような希望や願いがありますか?最後にみなさんの胸の内を聞かせてください。

山田
何といっても、フォトプリント業界や印刷業界のプロたちに画質のすばらしさを認めてもらいたいですね。こんなにきれいなフォトプリントがこんなに高速でできるんだと。そして、一般のユーザーがその美しさに気付き、感動してもらえたらと思います。

大木
私は、写真には「力」があると思うのです。1枚の写真が人を喜ばせたり、思い出を引き出して心をなごませたりする力。そして、ときには悲しい思い出ですが、それを乗り越えて勇気を湧き出させる力。そういう「力」がより一層宿るきれいな写真をDreamLaboが提供していってほしいですね。

池田
私もそう思う。これまでのフォトプリント業界での通常の画質に比べて、ワンランク上のものを提供できるわけですからね。

広沢
一般のユーザーからDreamLaboで記念アルバムをつくりたいと指名されるようになったら、最高でしょうね。アルバム制作に適した両面印刷機能を装備したかいがあるというものです。

渡邊
その通りですね。一般ユーザーの声を早く聞きたい。DreamLaboが業界スタンダードになる日が来ると信じています。

加茂
それには、用紙のタイプを今以上に増やす必要があると思っています。一般ユーザーの幅広いニーズへの対応を用紙でも実現していくのは、DreamLaboが業界スタンダードになる上では欠かせないですからね。

中尾
業界スタンダードになってほしいという期待とは別に、これまでにはなかったような写真商材での新ビジネスが誕生してくれたら、もっとうれしいですね。

勅使川原
それは十分にあり得ること。それだけの画質と機能を実現したと私は思っています。

わかりました。DreamLaboには、未知の市場まで生み出せるポテンシャルがありそうですね。本日はありがとうございました。

さいごに
業務用のインクジェットフォトプリンターの最高傑作を創り出そうと長い年月、大勢の開発者たちが心血を注ぎ、完成させた新ブランドDreamLaboは、「ラボ屋さん」にとって、文字通り「夢のマシン」になるのではないでしょうか。今回の開発に携わったみなさんの努力が市場で報われる日はすぐそこまで来ています。その日を待ち望んでいることが、みなさんの言葉の端々から感じられました。

インタビュアー・構成
須田 忠博(すだ・ただひろ)
1955年、福島県生まれ。通信社・出版社での編集業務、編集プロダクション経営を経てフリーライターに。経営情報誌や転職情報誌で幅広く活動。近年はポータルサイトメディアへの寄稿が多く、技術・製品開発リポートをメインテーマの一つとする。

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インタビュアー・構成
須田 忠博(すだ・ただひろ)
1955年、福島県生まれ。通信社・出版社での編集業務、編集プロダクション経営を経てフリーライターに。経営情報誌や転職情報誌で幅広く活動。近年はポータルサイトメディアへの寄稿が多く、技術・製品開発リポートをメインテーマの一つとする。

今回の「語る」開発者

池田 靖彦(いけだ やすひこ)

開発担当分野:
紙搬送メカ

渡邊 昌彦(わたなべ まさひこ)

開発担当分野:
電気回路および印字
画像読み取り装置

中尾 宗樹(なかお むねき)

開発担当分野:
本体コントロール
ファームウェア

勅使川原 稔(てしがわら みのる)

開発担当分野:
印字プロセス

山田 顕季(やまだ あきとし)

開発担当分野:
画像処理アルゴリズム

大木 三雄(おおき みつお)

開発担当分野:
外部接続アプリケーションシステム

広沢 稔明(ひろさわ としあき)

開発担当分野:
インクジェットヘッド
モジュール

加茂 久男(かも ひさお)

開発担当分野:
専用用紙

開発者が語る バックナンバー

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