半導体産業の革命児 ナノインプリント

光を使って回路を焼き付ける露光技術。半世紀にわたって半導体露光装置の屋台骨を支えてきたこの技術がいま、ナノインプリントという次世代技術へ変わろうとしています。キヤノンはウエハーを高速かつ正確に動かすウエハーステージや、高精度な位置合わせなど、これまで半導体露光装置で培った技術を生かし、世界に先駆けナノインプリント技術の量産化に向けて取り組んでいます。

技術的限界を新技術で乗り越える

半導体の微細化の歴史
5年ごとに約半分に細くなった線幅が、2000年代後半以後は停滞気味

いまや半導体チップは家電製品から自動車、スマートフォンなど、私たちの生活を支えるあらゆる製品に欠かせません。半導体チップの進化は回路パターンの微細化の歴史ともいわれ、その微細化のカギを握るのが光源の短波長化と微細化に対応した露光技術の開発でした。
1990年代前半、波長365nmのi線が登場し350nmパターンの解像を実現しました。以後、KrF、ArFと新たな短波長光源が開発されましたが、光源の短波長化による微細化は2000年代後半のArF液浸による38nmから伸び悩み、技術的限界に達したといわれています。
この従来手法による微細化に代わる次世代技術としてナノインプリント(Nanoimprint Lithography:NIL)に着目。ナノインプリントは15nmの線幅に対応でき、さらなる微細化も可能です。加えて、デバイスメーカーの生産コストも大幅に削減が見込め、半導体業界に革命を起こすものとして注目されています。

実験室レベルの技術を実用化レベルに

従来の露光技術が光で回路を焼き付けるのに対し、ナノインプリントはパターンを刻み込んだマスクをウエハー上に塗布された樹脂に押し当てて回路を形成します。イメージとしては、粘土に凹版のスタンプを押しつけて凸型にするというものです。この新技術は微細な回路パターンをきれいに形成でき、再現性も高いという特長があります。
しかし、課題は少なくありません。直接転写で回路パターンを形成するため、nmレベルでの正確な制御が必要です。また、量産化には繰り返し精度や異物の除去も求められ、実用化は困難であるといわれていました。しかし、キヤノンの持つ、ハード・ソフト・材料などの技術を総動員することで山積する課題を克服し、実用可能なレベルへと一気に引き上げたのです。

頻出する課題にも実直に向き合う

課題を克服するため、キヤノンが取り組んだ実用化技術の一つ、それがウエハー上に塗布する樹脂の量と位置の制御です。マスクを押し当てる際、樹脂がマスクからはみ出すことを防ぎつつ、均一な厚みの樹脂層が形成されるよう、独自のノウハウを持つインクジェット技術を活用し、塗布量と位置の繊細な調整を実現しています。また、マスクをウエハーから引きはがす離型工程においても、離型時にマスクとウエハーの相対位置を最適に制御しないと、凸型に形成した回路パターンが崩れてしまうといった問題がありました。そのためnmレベルでの制御技術を強化するなど新たな技術に挑戦し、他社の追随を許さない高い技術力を獲得することで、量産化に向けた歩みを着実に進めています。

異文化からシナジー効果を生み出す

キヤノンはナノインプリントの量産化を、世界の最先端かつ唯一の技術を持つ米国キヤノンナノテクノロジーズ(CNT)社と協力し、取り組んでいます。
キヤノンが持つ半導体露光装置の開発に欠かせない制御や計測技術、各要素のインテグレーション技術に加え、これまで培ってきたサービス・サポートのノウハウ。これらをCNTの最先端技術と融合させることで、技術的限界とまでいわれた微細化の壁を乗り越えようとしています。
CNTとの協業は技術面のほかにも多くのメリットがあります。CNTは2001年に設立した新しい会社で、エッジの効いた技術開発を志向する開発者集団でもあり、開発に取り組む姿勢はキヤノンの若手開発者にとっても良い刺激となっています。

キヤノンが進めるナノインプリント技術の仕組み

露光技術は半世紀以上の歴史を持ち、半導体チップの低コスト化に貢献した技術ですが、線幅が細くなるほどシャープなパターンの形成が難しくなります。そのため、微細化にはさまざまな工夫が必要になり、装置も大型化してきました。これが技術的限界といわれる所以です。
一方、ナノインプリント技術は短波長化した光源を必要とせず、回路パターンを刻み込んだマスクを押し当てるだけなので装置をシンプルにでき、大幅なコストダウンが見込めます。しかも、非常にシャープな回路パターンを形成でき、チップの不良率の低減も期待されています。

ナノインプリント:1.インクジェット技術を使って、液滴状にしたレジストと呼ばれる樹脂を回路パターンに合わせてウエハー上に塗布する 2.回路パターンが彫り込まれたマスクと呼ばれる型をウエハー上に塗布されたレジストにスタンプのように直接押し付ける 3.紫外線でレジストを硬化させて回路パターンをつくり、マスクをレジストから引き離す 光露光:1.光露光用のレジストをウエ
ハー上に塗布する 2.ウエハー上に、レチクルに描かれた回路パターンをレンズを使って縮小投影露光し、レジストを化学変化させる 3.現像して、光の当たった部分のレジストを除去し、回路パターンをつくる