共通基盤技術
ネットワーク環境はさらに進展を加速させています。デジタル技術を要素別に構造化し、プラットフォーム化を促進。さまざまな製品で共通利用し、開発のスピードアップと品質向上を実現しています。
カラーマネジメントシステム(CMS)技術
キヤノン統一高画質カラーを実現
個々の入出力機器は再現可能な色の範囲(色域)がそれぞれ異なるため、ディスプレイやプリンターで出力した色味が、デジタルカメラやスキャナで入力した画像の色味と異なってしまう、という問題がありました。
キヤノンでは、入出力機器において高画質かつ統一感のある色を再現するための活動を進めてきました。永年蓄積してきた画像計測・評価・シミュレーション技術、画像処理技術をもとに、オリジナルに対し忠実に再現する色や、人が「好ましい」と感じる色、グラフィックスやロゴ出力のような用途に合った最適な色などの数値化を行い、目標色を「キヤノン統一高画質カラー」色設計指針として設定しました。また、それらを実現するための設計・評価ツール群を開発し、統合画像設計環境を構築しました。
「キヤノン統一高画質カラー」は現在、全ジャンルのキヤノンのイメージング機器に搭載されています。これをさらに発展させ、色の「見え方」に大きく影響する人間の視覚特性や照明特性を考慮した高精度カラーマネジメントシステム(CMS)技術「Kyuanos」や、紙種毎の微細な表面形状の違いによる色味や光沢感の変化を予測する「質感シミュレーション技術」を開発しました。
高精度カラーマネジメントシステム技術 「Kyuanos」
正確なカラーマッチングの実現には、入出力機器や紙の組み合わせごとにプロファイル(色設計データ)が必要になります。従来、このプロファイル作成には膨大な人手と時間を費やしていました。「Kyuanos」は自動プロファイル作成機能により、プロフェッショナルの要求精度に対応した高精度カラーマッチングを容易に実現することを可能にしました。
近年、各入出力機器の色再現範囲が拡大したことで、従来の標準色空間(sRGB)やビット長(8ビット)では正確な色表現が困難になっています。そこで「Kyuanos」では、従来の制限を受けずに各機器の色表現能力を最大限に引き出す方法として、拡張色空間や多ビット化(16ビット、32ビット)などに対応し、鮮やかで階調性に優れた色再現を実現しています。
機器による色再現の違い
また、「Kyuanos」のもう一つの特徴は、異なる照明環境への対応です。「Kyuanos」では、色に対する人間の視覚特性、画像の「見え方」に大きく影響する照明特性(蛍光灯や白熱電球など)や機器の色再現特性など、それぞれのデータを数値化しています。それらのデータを用いて画像変換することにより、異なった照明環境下でも、「色の見えの一致」を可能にしました。
Kyuanosによる見え方の違い
質感シミュレーション技術
印刷物の画質は、色味のみならず光沢感によっても大きく異なります。質感シミュレーションは、紙の表面形状を精密に計測して光の反射・吸収・散乱を計算することで光沢特性を予測し、印刷物に対する照明光の映り込み状態を再現する技術です。紙上のインクやトナーといった色材も含めたシミュレーションにより、光沢紙や普通紙など、紙種を問わず高画質プリントが実現可能な色材や記録方式の検討に活用しています。
質感シミュレーション技術の例
映像認識技術
映像理解に基づくインテリジェント機能※1の実現
キヤノン製品の高機能化やユーザビリティ向上のため、映像データの内容を理解するための認識技術の開発に取り組んでいます。たとえばカメラで撮影中の顔を検出し、目つむりや笑顔を認識することにより、失敗写真を防ぎ、ベストショットを簡単に撮影することができます。今後は、さまざまな物体や状況の認識を可能にし、高画質化や監視カメラなどのセキュリティ領域へ適用範囲を広げていきます。
映像認識技術の適用例
- ※1 インテリジェント機能
人間と同等以上の判断ができる機能。例として、オートフォーカスなどの機器制御やユーザーインターフェース、検索などが挙げられる。
ユーザーインターフェース(UI)技術
使い手の「意のままに」を実現
スマートフォンやタブレットPCといった最新モバイル情報端末のユーザーインターフェースは、作業・操作の簡単さ、効率性といった尺度を超え、使うこと自体が楽しみとして認められ、使い手とシステムに新たな価値、関係性を生み出すものに進化しています。
「意のままに」を実現する手段
キヤノンでは、使い手の目的や意図を的確にくみ取り、使いやすさを追求するため、さまざまなUI技術の開発に取り組んでいます。
複雑化するデジタル機器の機能に対し、直観的な操作を実現するため、手書き文字、音声、ジェスチャーなどを検知検出・認識するマルチモーダル(視覚、聴覚/音声、触覚などの複数の感覚)入力技術を開発しています。
UIでは、使い手の指示操作に応じた感覚的なフィードバックはもちろんのこと、システムの状態や操作の結果、また、操作の誘導に必要な文字やグラフィックなどの情報を的確に表示(出力)することが重要です。こうした表示を可能にするため、キヤノンはさまざまなサイズや種類のディスプレイに合わせて最適な状態で表示する描画技術や、より豊かな表現を実現するためのスムースなアニメーション・動画表示技術も開発しています。また、視覚に頼らず情報を伝える音声合成も、より人間らしく自然に聞こえるように進歩させています。
キヤノンは先進の機能、サービスに相応しいUIを実現し、新しい価値を創造するための技術開発に取り組み続けています。
ジェスチャー認識を使ったコラボレーションシステム
通信ネットワーク技術
キヤノン製品のコネクティビティを実現
カメラやプリンターなどのキヤノン製品をネットワークに接続し、キヤノンの高画質映像を「簡単・セキュアかつ高速・省電力」で高品位に伝送するため、通信ネットワーク技術の開発に取組んでいます。
通信ネットワーク技術によるコネクティビティのイメージ
無線通信技術
無線通信技術は、機器を「いつでも、どこでも」簡単に利用できる高速無線通信の環境を実現します。
キヤノンは、標準無線技術の無線LAN(Wi-Fi)をカメラやプリンターなどの製品組み込み用に特化して開発し、通信パフォーマンスの向上、簡単で安全な接続の実現を図っています。この技術は共通プラットフォーム化され、キヤノンの各製品に最適化された上で搭載されています。
この他、スマートフォンと無線で連携する近距離無線技術や、公衆無線技術を開発しています。
さらに、ユーザーの不便さを解決するために、入力から出力までさまざまな機器同士のシステム化を進め、異なる規格に対応した機器間の無線切替や自動接続を可能にする通信ミドルウェアを開発し、標準化にも取り組んでいます。
高品位映像通信技術
ネットワーク接続された機器間で映像通信を行う場合、刻々と変化する信号や通信の品質を制御する技術が必要となります。キヤノンの高速映像通信技術は、スーパーハイビジョン映像を、ネットワークを介して品質を保持したまま高速伝送することを目指しています。
さらに、この技術を利用して、臨場感ある映像コミュニケーションを遠隔地間で実現する技術開発にも取り組んでいます。
ミリ波無線技術
ミリ波無線技術は、非圧縮フルHD映像などの大容量データを伝送できる超高速無線技術です。WirelessHD Consortium※2やWiGig Alliance※3などの規格化により、今後の実用化が期待されています。キヤノンでは、フルHDを超える高精細映像を複数の映像機器に伝送する技術の開発に取り組んでいます。この技術により、フルHD 2画面のパノラマ映像を2台のプロジェクタで投影するデュアルプロジェクションシステムが無線で実現可能となります。
- ※2 WirelessHD™ Consortium
テレビやビデオカメラなどAV機器向けのデジタル映像・音声入出力インターフェイスであるHDMI(High-Definition Multimedia Interface)信号をミリ波無線で伝送する為の規格を策定している業界団体。 - ※3 WiGig Alliance (Wireless Gigabit Alliance)
ミリ波無線による短距離高速デジタル無線伝送技術の規格化を策定する業界団体で、次世代無線LANであるIEEE802.11adの規格化も推進。
クラウドサービス基盤技術
デジタル機器とクラウドサービス間との連携を実現
キヤノンでは、デジタル機器とクラウドサービスが連携したソリューションを提供するためのクラウドサービス基盤技術を開発しています。
このサービス基盤は、キヤノンの得意とするイメージングやドキュメントなどを扱うサービスで使われる、データ変換や認証、ビッグデータ解析、および分散処理、セキュリティなどの技術から構成されます。このサービス基盤により、今後、さまざまなクラウドサービスへの対応と短期間でのサービス構築が可能になります。
デジタル機器とクラウドサービスとの連携の概念図
データ変換技術
デジタル機器とクラウドサービスが連携することで、提供出来る機能の可能性が広がっています。たとえば、印刷機能をクラウドサービスとして提供することにより、従来PCに必要だったプリンタドライバがなくても印刷が可能になります。また、スマートデバイスなどの機器からクラウドサービスにアップロードしたデータや、他社のクラウドサービスで保管されているデータを取り出して印刷することも可能になります。そのためキヤノンでは、データのフォーマットをプリンタの出力形式に変換するデータ変換技術を開発し、プリンタへの出力を実現しています。
クラウド認証技術(シングルサインオン)
クラウド上のサービスを利用する際、ユーザー認証が求められます。その際、利用するサイト毎に何度もユーザーIDとパスワードを入力することが課題となっています。そこで、その手間を省くため、一度認証されるとそれ以降はユーザー認証をパス出来るようにする技術がシングルサインオンです。キヤノンでは、自社が提供するサービスと他社が提供するサービスとの間や、キヤノン機器と自社/他社サービスとの間で、シングルサインオンを実現しています。
セキュリティ技術
キヤノンの製品・サービスの安全性を確保
セキュリティ技術は、情報漏洩・改ざん・不正アクセスなどの攻撃からキヤノンの製品・サービスの安全性を確保するために不可欠な技術となっています。
そのため、キヤノンでは、組み込み製品に限らず汎用的に使える暗号・認証ライブラリ「C-SELECT」を独自開発しました。共通鍵暗号・公開鍵暗号・ハッシュ関数など、現在 20 種以上の暗号アルゴリズムをサポートしています。C-SELECT は FIPS140 準拠※4の第三者認証を取得しており、公的に定められたセキュリティレベルを確保しています。
さらに、製品の脆弱性対策を含むセキュリティ対策技術の開発も行っており、またセキュリティ対策技術が正しく動作することを第三者機関が客観的に保証するCC※5認証も複数の製品で取得しています。
- ※4 FIPS 140
暗号モジュールに対するセキュリティ要件を規定する米国連邦標準規格 (FIPS)。 - ※5 CC (Common Criteria)
情報セキュリティ技術に関連した製品・システムが適切に設計され、その設計が正しく実装されていることを評価するための国際標準規格。
画像検索技術
指定した画像から、類似した画像・シーンを検索
デジタルカメラやデジタルビデオカメラの普及と、ハードディスクやメモリカードの容量の増加により、手軽に画像や動画を撮影し保存することができるようになりました。また一方、保存データの容量や、画像を蓄積するデータベースの容量も増加したことにより、大量の画像から欲しい画像を検索するには手間がかかるようになりました。
キヤノンの画像検索技術は、キーワードを使わずに画像自体の持つ特徴情報を使うことによって、欲しい画像をすばやく的確に検索することが可能です。
類似画像検索技術
キヤノンの類似画像検索技術は、探したい被写体が含まれる画像を画像データベースの中から検索する技術です。
この技術は、画像の中の探したい被写体の部分的な特徴を多数選び出して検索する方式で、データベースの中にある他の画像と照合し、被写体の一部にでも同じ特徴が含まれていれば類似の画像として採用します。そのため、探したい画像全体を鮮明に覚えていなくても、大量のデータベースの中からすばやく的確に画像が検索できます。また、再現性の高い特徴を優先して検索するため、回転・拡大・縮小など元の画像から変形している場合や、元の画像をスキャン・圧縮したことで画質の劣化している場合でも検索結果から漏れることがありません。
更に、検索速度を高速化する為に、特徴として抽出される部分のデータ容量を1/4に軽減し、独自開発のインデックス(索引)技術と合わせ、業界トップレベルの検索速度(同等の動作環境において)を実現しています。
静止画の類似画像検索技術の概念
OS技術
機器組み込み用、リアルタイムOSプラットフォーム
キヤノンは、小型機器への組み込み用のリアルタイムOS※6として、「DRYOS」を独自開発しました。DRYOSは、デジタルカメラやデジタルビデオカメラをはじめとした、数多くのキヤノン製品に採用されています。DRYOSの核となるモジュール(カーネル※7モジュール)は、機器のさまざまなニーズやハードウェア資源に応じて、最小16KBから柔軟に構成できるようになっています。現在、10種類以上の組み込み向けCPUに対応し、PC上で動作するOSシミュレーターもサポート、実機を使わない製品開発が可能となっています。
また、大容量化するメモリカード向けのファイルシステムや、無線でインターネット接続をするために必要となる通信ソフトウェア群TCP/IPネットワークスタック※8などのミドルウェアも装備し、多様化するデジタル製品のニーズに応えています。
さらに、オープンソース・ソフトウェアの汎用OSとして有名なLinuxと、このDRYOSの二種類のOSを1つのシステムに組み込むことにより、PC並みの高機能とリアルタイム性能を同時に実現した組み込み製品も開発されています。
このようなシステムの基盤となるOSプラットフォームを自社で開発することにより、ソフトウェアモジュールの再利用や共通利用を促進し、製品の高性能化、高機能化にスピーディに対応しています。
DRYOSのモジュール階層構造
- ※6 リアルタイムOS
処理をリアルタイムで実行するOS。機器に組み込まれて使用されることが多い。 - ※7 カーネル
OSの中核部分。CPU、メモリー、周辺デバイスなどのシステムリソースを管理し、ソフトウェアとハードウェアを効率よく実行するための基本機能を提供する。 - ※8 TCP/IPネットワークスタック
インターネット接続のために使われる通信規約TCP/IPを扱うためのソフトウェア群。
システムLSI 統合設計環境
大規模なシステムLSI を効率よく開発
キヤノンは、製品に必要なハードウェア・ソフトウェアのシステム全体を1チップに搭載した「システムLSI※9」を自社開発しています。このシステムLSI はわずか数ミリ~数センチ四方の小さなチップですが、内部に非常に大規模なシステムが実装されており、製品の中枢機能を担う重要な部品です。キヤノンは、他社に先駆けて1990年代からシステムLSI の自社開発に取り組み、DIGICやiRコントローラー、L-COAなどを各製品向けに開発し、製品の小型化と高機能化を実現しました。
複数機能を集約したLSI の開発には、多数の技術者との協調や効率的な開発環境が必要です。キヤノンは高効率な「システムLSI 統合設計環境」を独自開発、仕様検討から物理設計まで全工程を総合的に行っています。
システムLSI 統合設計環境
- ※9 システムLSI
CPU、メモリー、専用LSI などで実現していた機能を1個のチップ上に集積した大規模集積回路のこと。システムLSI では、複数のチップを使用する場合の複雑な配線が不要となるため動作が高速化する。また、1チップのため基板上の専有面積が小さくなり、基板の小型化、機器の小型化も可能となる。
設計支援環境
共通フローに従ったLSI の設計支援のために、独自開発の設計支援ツール「MayDay」を開発しました。MayDayは理解しやすいGUIベースのツールで、数百名規模のチーム各人の意思疎通と作業進捗をサポートします。また、MayDayを構成する「コンピュートファーム」では多数のCPUやツールのライセンスを管理することで、要求に応じた最適な計算サーバーとライセンスを提供し、ツールを自動実行します。
「構成管理」では、コンパイルやシミュレーションに必要なファイルとディレクトリー全体の成果物を管理しているため、設計資産を容易に再利用することが可能です。
また「リソース管理」により、設計環境利用状況を常時監視し、投資最適化に取り組んでいます。
さらに「障害管理」では、開発フローとリンクしながら各プロジェクトでバグの情報を共有しているため、複合的な条件検索と追跡が可能です。
物理設計技術
システムLSI内部には1チップ内に1億以上の素子が集積されます。数百MHzというクロックスピードで高速に動作させるために、これら素子の配置・配線を最適化する技術が物理設計技術です。LSIプロセステクノロジの微細化、性能・集積度の更なる向上のためにピコセカンド、マイクロボルト、ナノメータ精度での分析や、LSIチップからプリント基板に至る広範な範囲での設計・最適化が求められています。
システムLSIの内部ではナノメータオーダーの配線が
何層も立体的・縦横に走り、素子間を配線
1億以上の素子を集積するシステムLSIをモデル化し、
プリント基板全体の動作・特性を解析
ソフトウェア設計・検証技術
機器組み込みソフトウェアの品質と生産性を向上
製品に組み込まれるソフトウェアの品質と生産性の向上を目的として、ソフトウェア開発の上流から下流工程に至る、設計と検証の技術開発と環境の構築を行っています。
上流工程の技術として、多様化するハードウェアと正しく協調動作することをシステム設計段階で先行確認するためのハード・ソフト協調設計技術や、設計されたソフトウェアの動作モデルが正しいことを数学的に検証する形式検証技術に取り組んでいます。また、下流工程としては、ソフトウェアの修正時に繰り返し実行されるテスト実行を自動化する技術に取り組んでいます。
上流から下流工程までのソフトウェア設計・検証技術の取り組み
テスト実行自動化技術
ソフトウェア開発工数の内、テストにかかる工数比率が高いため、自動化による省力化効果は大きなものとなります。ソフトウェアの修正時の反復テスト(リグレッションテスト)において、ビルド・ユニットテスト・カバレジ測定・性能測定等の一連のテスト手順を終夜自動運転することにより、省力化・テスト漏れの防止・品質の安定化を図っています。
テスト実行自動化環境
ディペンダビリティ
究極の品質保証概念
ディペンダビリティ(dependability)とは、安全で信頼できるサービスをユーザーに提供する、というシステムの能力あるいは属性です。
サービスに障害(failure)を生じさせる原因をフォールト(fault)と言いますが、フォールトはいつでもどこにでも存在します。たとえば、部品・材料の経年劣化、間違った人間の判断や行動、ネットワークの不整合、システム環境の変化、制度・慣習の変化、技術の進歩も障害の原因になり得ます。
このようにさまざまな形態でフォールトが存在することを前提とした上で、決して致命的な障害を起こさず、ユーザーが満足できる期待通りのサービスを提供し続けるシステム能力のことをディペンダビリティと言います。ディペンダビリティは、急激に変化し、相互依存性を増し、複雑化する情報社会において安全と信頼を担保する究極の品質保証概念です。キヤノンでは、事業理念として、すべての分野において最高の事業価値と考え、その実現に取り組んでいます。
インプロセス可視化技術
機器の動作メカニズムを解析
インプロセス可視化技術とは、製品の動作プロセスを直接観察(光学観察)し、製品の動作メカニズムを明確にする技術です。この技術はキヤノン製品のトナーの現像・定着プロセスやインクの吐出プロセスの解明に役立てられ、製品設計や技術革新に貢献してきました。
レーザープリンターや複合機のトナー1個の直径は数μm※10、インクジェットプリンターのインク液滴は1滴1pl ※11と極めて微細であると同時に、非常に高速な運動であるため、その現象を正確にとらえるのは極めて困難です。また、いずれも製品内部の非常に奥深くて狭い部分で生じる現象であるため、覗くことすら難しいのです。サンプルや装置の製作、超高速度カメラでの撮影、画像解析など、現象観察には高度な技術が応用されています。
- ※10 μm(マイクロメートル):1μmは1mの100万分の1。
- ※11 pl (ピコリットル):1pl は1リットルの1兆分の1。
トナーの現像プロセスの可視化
トナーが感光ドラムに向かって飛ぶ様子を可視化する技術です。わずかなすき間を飛ぶトナーの動きと規則性を分析、機構配置や最適制御電圧などを解明しています。
トナー現像プロセスのインプロセス可視化技術の概念図
トナーの現像プロセスの可視化
トナーの定着プロセスの可視化
定着部材によるトナー溶融→広がり→再固化を観察装置でとらえます。温度、圧力、変位を測定した力学的なデータと統合してシミュレーションを行い、定着機構の部材開発やトナーの特性解明に役立てています。
インク液滴吐出プロセスの可視化
インク液滴吐出プロセスは、吐出から紙へ着地するまで1万分の1秒以下と超高速のため、キヤノンは光の波長に迫る空間分解能と100万分の1秒レベルの時間分解能の解析技術を開発しています。
シミュレーション技術
現象を分析して製品性能を予測
製品開発段階で、製品内で起きる現象を分析したり、製品の性能を予測するシミュレーション技術は、技術研究や新製品開発期間の短縮に役立っています。
電子写真プロセスのシミュレーション
レーザープリンターや複合機の電子写真プロセスは、帯電、露光、潜像、現像、転写、定着、クリーニングのプロセスで画像を形成します。画像形成に重要なこのそれぞれのプロセスは、いずれも複合的かつ複雑な現象で、計算による予測は今まで困難でした。
キヤノンでは電子写真プロセスのシミュレーション技術を独自に開発し、新たな技術の研究や新製品開発の効率化につなげています。
複合機における転写プロセスのシミュレーション例
プリントヘッドのシミュレーション
インクジェットプリンターのプリントヘッドの開発では、良好なインク液滴吐出状態をつくるためにノズルの構造の設計がきわめて重要になります。キヤノンは、インク液滴の吐出現象を計算するシミュレーションプログラムを開発し、ノズルの構造と駆動条件から吐出詳細挙動を予測することに成功しています。ヘッドを試作する前に、ノズル構造と吐出状態の関係を把握することで、高性能のヘッドを短期間で開発することが可能となりました。
インク液滴吐出状態のシミュレーション例
超音波モーター(USM)
超音波域振動でフォーカス/ズーム機構を駆動
USM(UltraSonic Motor)は、キヤノンが一眼レフカメラ用交換レンズのフォーカス駆動用としては世界で初めて実用化した、超音波振動で駆動するモーターです。
圧電セラミック素子によりステーターという弾性体にたわみを生じさせると、そのたわみ振動の超音波進行波が円周方向に進み、ステーター表面には楕円回転運動が生じます。それにより、ステーターと接触した回転体であるローターが、楕円回転運動との摩擦によって超音波進行波と逆方向に回転するしくみになっています。USMは高トルクで応答性が高く、優れた制御性をもっています。さらに、作動音がほとんどないことやレンズに搭載しやすい形状といった特長があり、EFレンズのフォーカス駆動用モーターとして理想的な特性を備えています。
キヤノンはEFレンズに最適なUSMを開発し、静かで素早いフォーカス駆動やフルタイムマニュアルフォーカスなど、EFレンズの特徴的な機能を可能にしています。また、コンパクトデジタルカメラのズームレンズに使用することで、素早いズーム駆動を実現しています。
リングUSM、マイクロUSM、マイクロUSM II(左から)
USMの動作原理
有機ELディスプレイ
モバイル機器の利便性を向上
有機ELディスプレイは、二つの電極間にある有機材料が電圧により励起し、再び元に戻るときに光を放出する現象を利用した自発光型ディスプレイです。高画質で薄型・軽量、低消費電力であるため、携帯電話などのモバイル機器用ディスプレイとして注目されています。
キヤノンでは、有機材料から装置やプロセスまでの全工程を一貫して独自開発し、高性能と低コストをめざしています。
有機材料には、キヤノンが電子写真技術の分野で開発した有機感光体の原理を応用し、電子注入輸送材料、発光性能を上げるドーパント材料、RGB発光材料などを開発しました。
構造は封止層側へ光を出す「トップエミッション」で開口率が高く、光を効率よく取り出すことができます。「高精細マスク蒸着技術」を採用した有機膜は、RGB発光材料をそれぞれの色で発光するように各色ごとに塗り分けることで、カラーフィルターや色変換が不要です。画素の駆動には、「アクティブマトリクス方式」のTFT基板を採用しています。
製造技術面では、真空加工技術を保有するグループ会社のキヤノンアネルバ、キヤノントッキとの技術提携、ジャパンディスプレイとの協働により、高効率、高色純度および高寿命の有機ELディスプレイの製品化をめざしています。
有機ELディスプレイ(試作機)
有機ELディスプレイの構造
エンコーダー
ナノスケールの動きまで正確に検出
エンコーダーは、対象物にスケール(目盛り)を取り付け、そのスケールをカウントして角度や移動距離を測定するセンサーです。キヤノンは、最先端の光計測技術を利用して、超精密・超高精度のエンコーダーを開発しています。
レーザーロータリーエンコーダー(LRE)
半導体レーザーを光源に、光の回折※12・干渉※13現象を利用して角度を検出します。独自のプリズム光学系を使用したことによって小型化を実現。産業用ロボットアームの角度調整や放送機器用カメラの雲台などに使われています。
レーザーロータリーエンコーダーの原理
- ※12 回折
光の特性の1つ。光は波の性質をもつので、物体にあたると物体の影の部分に回り込んでいく。その現象のこと。 - ※13 干渉
光の特性の1つ。光は波の性質をもつので、同じ位相の光と合わさると明るくなる。180度位相がずれている光と合わさると打ち消し合って暗くなる。その現象のこと。
マイクロリニアエンコーダー(MLE)
LEDを光源とした独自の反射回折干渉方式を利用したエンコーダーで、長寿命、超小型サイズを実現しています。最高分解能は1000分割器との併用で0.8nm※14。 半導体露光装置のステージ用センサー、ハードディスク検査器、半導体計測機器などに使われています。
マイクロリニアエンコーダーの原理図
- ※14 nm(ナノメートル):1nmは1mの10億分の1。
レーザードップラー速度計
速度ムラや回転ムラを非接触検出
レーザードップラー速度計は、アフォーカル光学系※15を通してレーザー光を照射し、移動・回転している対象物の速度を非接触で計測する装置です。
レーザー光をコリメーターレンズによって平行光にして回折格子で分割します。E/O周波数シフター(周波数をシフトさせる素子)によって周波数差のできた2つの光を測定物に照射し、その散乱光を集光レンズを通してフォトダイオードに取り込み、得られた光のビート信号(ドップラー周波数)から速度を測定します。静止状態から秒速-200~2000mm、-50~5000mmの速度の測定が可能です。プリンターや複合機の用紙搬送速度や速度ムラの検出、感光ドラムの回転ムラの検出、工作機械の駆動部の回転や送りムラの検出など、研究開発や生産現場で使われています。
レーザードップラー速度計
レーザードップラー速度計の原理図
- ※15 アフォーカル光学系
非焦点(焦点距離が無限大)の光学系であり、レンズに平行光が入射し、同じく平行光が射出する。望遠鏡やビームエキスパンダー(レーザー光のビーム径を広げるための光学モジュール)に使われる。
ガルバノスキャナー
高度なレーザー加工を実現
レーザー加工機は、ミラーを高速に駆動し、レーザー光の位置決めをして穴あけやカッティング、トリミングなどを行う装置です。
キヤノンの「ガルバノスキャナー※16」はレーザー加工機へ搭載する高精度レーザースキャナーで、独自のエンコーダー技術を採用。用途に応じて最適に制御するフルクローズドデジタルサーボ技術と組み合わせて、ミラーの角度位置を検出します。高度な位置決め精度、くり返し再現性、整定速度の高速化を同時に達成しているガルバノスキャナーは、レーザーVIAホール※17加工機や3次元造形機などに搭載されて、携帯電話などの高密度基板の加工や、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池パネルの生産などに役立っています。
ガルバノスキャナー
ガルバノスキャナーを搭載したレーザーVIA ホール加工機の原理図
- ※16 ガルバノスキャナー
高感度電流計のガルバノメーターの機構を応用したスキャナー。ガルバノという名称は、イタリアの物理学者ルイージ・ガルヴァーニから。 - ※17 VIAホール
多層基板の各基板上につくられた回路の配線を接続するために開ける穴。VIAとは「~経由」の意味。
超小型レーザー干渉計
0.08nmの微小変位や振動を非接触検出
レーザー干渉計は、光反射面をもつ対象物の運動状態(変位や振動)をレーザー光を使用して、非接触で測定するセンサーです。キヤノンではマイケルソン干渉方式※18を採用した「マイクロレーザーインターフェロメーター」を開発し、0.08nmという超高分解能を達成しています。
この干渉計は、半導体レーザーの採用とキヤノン独自の光学設計で32(幅)×47(奥行)×19(高さ)mm、重さ約50gという小型化・軽量化を実現。各種機器組み込み時のスペース効率を大幅に向上させ、自動車用燃料噴射装置のピエゾ素子特性評価、半導体露光装置やEB(Electron Beam)描画装置のステージ位置決め、精密駆動機械の微振動解析などに使われています。
マイクロレーザーインターフェロメーター
- ※18 マイケルソン干渉方式
光源からの光を2つ以上に分割し、対象物からの反射光(測定光)と固定した反射面からの反射光(参照光)を再度合わせて干渉させる。

