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Member of the Canon Academy of Technology/鈴木章義(すずき・あきよし)/[専門分野:露光装置技術]

カメラのオバケと向き合って

半導体露光装置というのは、一言でいうと「カメラのオバケ」です。何百キロもある巨大なレンズユニットを使って、半導体に回路を焼き付けていくんですから、まったくカメラのオバケみたいなものなんです。

このオバケ装置は、キヤノンの製品の中でいちばん大きくて、いちばん高価な装置(数億~10数億円)ですが、半導体工場の奥に設置されて姿を見せませんから、実物を見たことがある人は少ないでしょう。人目に触れないところでどんどん世代が代わり、進化している装置なんです。ときどき、人目に触れて残っていく建築分野の仕事などが、非常にうらやましくなったりしますね(笑)。

図:半導体露光装置の光学系

半導体露光装置の光学系

半導体露光装置では、レチクル(原版)に描かれた回路パターンを照明光学系で照射し、投影光学系(巨大なレンズユニット)で縮小させてウエハに焼き付ける。ウエハは200~300mmのシリコンでできた円板で、親指のツメくらいの大きさの半導体チップを1枚で何100個も作ることができる。一つのショットの露光が終わると、露光装置のウエハステージ(ウエハを載せる台)が動いてウエハを次のショットに移動(ステップ)させ、再び露光動作に入る。露光、ステップの手順を繰り返すことにより1枚のウエハに多数の半導体を作るため、このタイプの露光装置は「ステッパー」と呼ばれる。

露光装置開発者はウソつき?

半導体は、回路パターンの線幅がどんどん細くなる方向で進化しています。細いほど、電子回路が高速化します。また、高機能なものが小型にできます。

だから、回路線幅をどのくらい微細にできるかという「解像性能」が、露光装置の性能になります。そして、その解像性能は、照明光学系の光源の波長と、「NA」という数字で表される投影レンズの性能で決まります。

光源の波長とNAが、短いサイクルで変わって進化していくものだから、露光装置技術には次々と課題が出てくるんです。波長は、g線、i線、KrF、ArFと、7年程度のサイクルで変わってきました。波長は変わるごとに、だいたい3割短くなってきています。

NAはどんどん大きくなります。よく上司には怒られたものですよ。いつもその時点の技術力を極限まで使って設計し「このNAのレンズしかできません。これでやりましょう」と、言うわけです。ところが1年くらい経つともう少し大きいNAのものができている。それを持っていくと「前はあれしかできないと言ったじゃないか」と(笑)。考えてみると、露光装置の開発の歴史は、ウソのつき通しの歴史なのかもしれません。

勿論、NAが大きくなるには、それなりの技術的理由があります。その時は限界だと思って仕事をしているんですが、その限界を越えたところが次のターゲットになる。だから、次のもうちょっと高いレベルをクリアするには何か新しいイノベーションが必要になります。そこで必死に工夫し、新しい技術導入の準備をするわけです……その新しい技術を核にして、さらにその先が見えてくる。

たぶん、露光装置技術は、次々と新技術を導入するだけの奥が深いものであったのでここまでやってこれたんでしょうね。

[式:露光装置の解像性能]

露光装置の解像性能は次の式で表される。

露光装置の解像性能

つまり解像性能は、露光波長を短くし、NAを大きくすれば上昇する。

[表:露光光源と波長の変遷]
光源の種類 波長
g線 436nm
i線 365nm
KrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザ 248nm
ArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザ 193nm ←現在の主流
F2レーザ 157nm
EUV(Extreme Ultra Violet) 13.5nm

過去のデータもあてにならない極限技術領域

こんなふうに、新しい技術領域を扱っていると、過去のデータがあてにならないこともあるんですよ。自分で実証していくしかないことがよくあるんです。

例えば、F2レーザから出る157nmの光は、それまでのエキシマ露光装置に使われていた材質の石英を通りません。すると限られた光学材料の中では、レンズになるものは蛍石しかないんです。

ところが、理論的には透過することが分かっていても理科年表などの過去のデータを見ると、蛍石は波長157nmの光を通さないことになっているんです。これは不純物の影響で、実際にはそのように純粋な物質が世の中に存在していなかったわけです。そこで、蛍石自体の開発から入り、純度をどんどん上げて1センチあたり99.5パーセント以上の透過率が達成できるようになりました。このように材料の基礎データから新たに検討し直していくというところがあるから、研究・開発が大変だけれどおもしろいんですね。このあたりのおもしろさを、もっとたくさんの人にも知ってもらいたいとも思います。

図:極限領域の技術開発の特殊性

極限領域の技術開発の特殊性

 

成し遂げてきた数々の成果

キヤノンは、1970年に「ミクロンプロジェクト」を発足し、露光装置の開発を始めました。私は73年に入社して、PLAという装置の開発から係わっています。PLAは、原版を密着させて露光するコンタクト露光、プロキシミティ露光方式の装置です。次に、MPA(Mirror Projection Aligner)。これはミラープロジェクション方式の装置で、ミラーで構成されたユニットで光をウエハまで導くわけですが、この技術開発で私は76年に「ミラー結像理論」の特許や社内論文を書き、後に発表して光学論文賞、さらに装置化に携わって機械振興協会賞をいただきました。

ミラープロジェクション方式は、今でも液晶基板露光装置に使われて、液晶テレビの製造に使われています。もちろん当時よりミラーも装置も格段に大型化していますけれど、30年近く同じ光学系が使われ続けているわけです。ずいぶん長持ちした技術になったと感慨深いですね。

PLA、MPAでは、オートアライメント(自動位置合わせ)のシステム開発も担当しました。当時で世界初のシステムでした。光学的に計測して位置合わせをする非常に高機能なロボットのようなシステムで、私は光学の担当でしたが、装置がうまく動かない間は毎日電気の担当者から「光学に問題がある」と言われるわけです。検討すると、「電気の方に問題がある」。お互いにそんなやり取りを毎日繰り返していくうち問題点が収束していって、ようやく出品予定のショーが始まる直前の夜に動き出しました。うまく動いた瞬間のあの感激はいまでも忘れられませんね。

オートアライメントはステッパーでも手がけました。ステッパーの開発で思い出が深いのは、何といっても「Uレンズ」です。ステッパーの投影レンズでは、開発初期、お客さんから求められる性能が出ない時期があったんです。レンズの「収差」の問題です。設計値を見ていたら、開発システムに不備があることにふと気付きました。当時の開発システムはカメラからの転用だったので、ステッパー設計用には不十分な点があったわけです。急遽、レンズ設計システムのソフト開発部門を巻き込んで新しいレンズ開発システムを特急で作り上げました。こうして設計された新レンズを工場の全面的な協力もあって立ち上げ、結果的に良いレンズを作れるようになりました。これらのことを短期間で行なえたのは本当にキヤノンの底力だと思います。おかげで、以降のキヤノンステッパーの高評価につなげることができました。

技術者としてものを開発していておもしろいと思うのは、こういうところですね。ものはウソをつかない。失敗は失敗として結果が出てしまいます。そこをいかにリカバーするのかが重要。そのためには、自分で「こうなるかな、こうだな」ときちんと理屈をつけて引っぱっていくのが大切です。

例えば、i線のステッパーで私が開発した「4重極照明」もそうでした。90年前後、私は『半導体製造装置における超精密光学系の研究』という博士論文を書いていたんですが、レジュメを書くために過去の仕事を見直していたんです。と、「こうしたら面白いことができそうだな」と、特殊な4方向から照明する新しい照明技術を思いついた。検討してみたらうまくいきそうだったので提案すると、チームのみんなが「やろうやろう」とおもしろがってくれて、製品化につながっていきました。

図:キヤノンの露光装置開発の歴史

キヤノンの露光装置開発の歴史

技術を探るおもしろさ

私は現在、いま注目されているArFの液浸技術、計測技術、次世代露光技術EUVなどに係わっています。EUVは13.5nmと非常に短い波長です。ArFの液浸技術を使った露光装置が2000年代後半の主力製品となり、EUVの露光装置は2010年代の主力製品になるでしょう。次々と、新しい課題が出されてきているのが、現状です。

入社して30年以上経ちますが、私は研究所にいた期間より、事業部にいた期間のほうが長いんですよ。自分では研究者というより技術者だと思っていますね。もともと露光装置開発は、研究しながら技術開発していく側面があります。製品によっては設計だけというものもありますが、最先端の露光装置開発では、理論も設計も両方理解していかないといけない部分があるんです。研究者と開発者、両方の意味を含めて、私は自分自身を「技術者」だと思っています。

技術者としてものを作るのは、ほんとうにおもしろい。それまで思っても見なかったようなアイデアや理論を自分が考えついて、「こんなことができるんだ」とわかった瞬間の驚き。その理論から技術を開発して、製品になっていく楽しさ。そうやって作られた製品を人が使う喜び……こういう技術開発の醍醐味を、ひとりでも多くの人に味わって欲しいと思います。

半導体露光装置のページ

技術者の横顔

鈴木 章義

鈴木 章義 (すずき・あきよし)

最先端のデジタル電化製品を内部で支える半導体。その半導体に回路パターンを焼き付ける装置が「半導体露光装置」である。日々高度化して回路線幅が微細化していく半導体に歩調を合わせ、露光装置も急激な進化を繰り返してきた。その微細化ぶりは驚異的で、当初マイクロメートルオーダーであった回路の最小線幅は、現在90ナノメートル(DRAMの場合。ちなみに2010年代後半には16ナノメートルになると予測されている)。

鈴木章義は、露光装置開発の初期段階から一貫して急進化する技術を牽引し続け、走り続けてきた。露光装置技術は、照明光学系、投影光学系などの光学系の技術はもちろん、アライメント(位置合わせ)、計測、超解像技術など、多岐にわたる要素技術が統合されて成り立っている。鈴木はそれら技術分野をまたがって広範囲に係わり、いくつもの新理論を組み立てて特許取得するなど、大きな業績を残している。あらゆるタイプの光学式露光装置の開発を手がけてきた鈴木だが、同様の経験を持つ技術者は世界に二人といないのだという。

「キヤノンの顔」として国際的な学会でも活躍しており、2005年度には、国際的な学会である「SPIE(国際光工学会)」のフェローにリソグラフィ分野では日本人として初めて選出された。

主な業績:オートアライメント開発(PLA、MPA、ステッパー用)、オートフォーカス/レベリングシステム開発、ミラー光学系の基本設計(ミラー結像理論)、投影光学系の収差分析(Uレンズシステム設計)、超解像技術(4重極照明QUEST、多重露光IDEAL)、液浸露光装置基礎検討など

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