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ネイサン・チェン選手
インタビュー

「フリーで4回転5本成功が目標
それが五輪に向けた今季の戦略」

文・野口美恵(スポーツライター)

シニアデビューとなった17歳の今季、4種類の4回転ジャンプに挑戦し注目を浴びているネイサン・チェン(米国)。フランス杯4位、NHK杯2位となりGPファイナル出場を決めた。シニアでの戦いについて聞いた。

シニアデビューでNHK杯銀メダル GPファイナル出場へ
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まずはNHK杯での銀メダルおめでとうございます。

NHK杯では何年も憧れの存在であった羽生結弦選手と一緒の試合ができたこと、同じリンクで滑ることができたこと、それが何より嬉しかったです。そして表彰台で隣に立つ事ができて、これ以上に光栄なことはないと思いました。とにかく何年も前から、僕にとって一番注目していたスケーターが羽生選手なんです。

NHK杯のショートでは、史上初の「4回転フリップ+3回転トウループ」の連続ジャンプを成功させましたね。

ショートは、他の試合では調子がよかった4回転ルッツを転倒しましたし、まだ安定していないトリプルアクセルも失敗しました。2つも大きなミスをしてしまったので、ショート全体としてはがっかりしています。でもルッツで転倒したために、4回転フリップを連続ジャンプにして、綺麗に降りることもできましたし、まあまあ良かったなという印象です。結果的に世界初だった、というだけです。

見事にNHK杯は2位。GPファイナルの出場を決めました。

シニアデビューの今季は、GPシリーズの大会での目標は「表彰台に乗ること」と「ファイナルに行くこと」の2つだったので、両方とも達成できて本当に嬉しいです。去年はシーズン途中でケガをしてしまったので、GPファイナルに出るからには、ケガに気を付けて練習したいです。

シニアデビューでファイナル出場というのは素晴らしいことです。実感はありますか?

シニアの戦いのなかで、どれくらい戦えるか。ずっと夏の間ワクワクしながらシニアデビューを待っていたので、とにかく今季はジャンプもミスを恐れずに、精一杯やっています。フィンランディア杯から始まり、まだニューフェイスなので、とにかく自分をアピールすることだけを考えてきました。ジャンプを恐れていないことが良かったと思います。NHK杯でのメダルも良いステップになりましたし、しかも憧れの羽生選手の隣での表彰台だったので嬉しかったです。

初めて羽生選手に会ったそうですね。

羽生選手はとにかく凄いと思いました。ずっとインターネットやテレビでしか演技を見られなかったので、初めて生で見ることができて、感動しています。羽生選手はフリーで4回転を4本入れているのに、さらに演技を楽しんでいるのが伝わってきました。ジャンプだけに集中していないのは素晴らしいことです。あと羽生選手は、集中力とか、精神的なエネルギーが素晴らしいですね。試合に向かっていく闘志を、一緒に練習していてすごく感じました。僕もああいう、自分をプッシュする力がもっと必要だと感じました。

15歳で初めての4回転成功 16歳で4種類まで習得
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逆に、羽生選手がチェン選手にも注目していますよ。4種類の4回転を跳ぶということで、話題になっています。

4回転ジャンプについては、特別に何かやったわけではなく、順番に少しずつ身につけてきました。13歳になる2日前に初めてトリプルアクセルを降りて、そのあとしばらく4回転は跳べませんでした。4回転トウループを練習で初めて降りたのは15歳の時です。国内の試合でも成功させました。4回転トウループを降りた2週間後には、練習で4回転サルコウも降りて、そのあと16歳になって4回転フリップを、そして比較的すぐに4回転ルッツを跳びました。

チェン選手にとって4回転を跳べる秘訣は何だと思いますか?

僕の場合は、瞬発力だと思います。筋肉はもちろんジムで鍛えていますし、4回転に必要な身体は作っています。そこに加えてまだ若いので身のこなしが速いんです。ジャンプの踏み切りで、膝と足首と上半身を一気に反応させて、バランス良くまとめることが秘訣です。とにかく迅速な身体の反応というのが、4回転の場合は重要です。ミスするときは、たいてい、反応が遅れた時です。

筋肉で4回転を跳ぶというよりは、身体の反応の速さが重要ということですね。

そうです。幸いなことに、身体の反応はもともと速かったみたいです。あと身体が細いことで、空中での回転速度は速くなりますから、そういう体型の有利さもあるかもしれません。羽生選手やハビエル・フェルナンデス選手も、やはり身体が締まっていますよね。

ケガと手術の反省から体力作り シニアシーズンは4回転5本へ
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ケガに悩まされるシーズンが続いています。

とにかくケガが一番の敵です。2014−2015シーズンは成長痛があちこちに現れて大変でした。膝、背中、腰、あとは上半身も痛めました。背も一気に伸びましたし、色々な身体の変化と付き合っていくのに、この2年は苦労しています。

昨季は全米選手権で3位となったあとにケガをして、シーズン後半は競技から離れましたね。

全米選手権ではフリーで4本の4回転を決めましたし、シニアで銅メダルも獲ることができて、自分のなかでは大きなステップアップでした。世界ジュニア選手権を控えていて、エネルギーもたくさん沸いている時でした。でもエキシビションの練習中に股関節を痛めてしまい、手術することになったんです。でも手術をしてリハビリもしましたので、このケガの後遺症などはないです。

ケガから学んだことや対策はありますか?

手術後は2ヶ月間滑ることもできず、色々な不安がありました。でも今季はシニアに上がることも決まって、気持ちをゼロからのスタートにしました。そしてケガをした時のことを振り返ると、疲れているなかで無理な練習をして大ケガをしたので、まずは体力を付けることが大切だなと思いました。すぐにジャンプトレーニングは再開できなかったこともあり、まずはジャンプをフリーで5本跳べるための体力作りを始めました。

4回転を、フリーで5本というのは本当に凄いことです。

若いからできるんです。4回転を4本、5本というのは、ジャンプのテクニックよりも、どちらかというと体力があること、そして演技中に体力を回復させられることが大切です。演技ではなく練習でただ4回転を跳ぶなら、4種類とも何歳になってもできると思います。でもプログラムで5本入れるのは別のこと。年齢を重ねてからは難しい挑戦です。なので今季、かなり無茶だとは思いつつも、この17歳という年齢のうちに挑戦しておきたいと思っています。

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4回転を5本も入れると、ミスのリスクが高くなります。得点や順位を目指すなら3本くらいに抑えるという作戦もあると思います。

もちろん試合に出る以上は、優勝を狙いたいものです。でも今季はシニアデビューですしまだ17歳なので、順位にこだわる年齢ではないです。とにかく今季の目標はフリーで4回転4種類降りること、そしてできれば4種類5本すべてを降りることです。この年齢を考えた時に、そういう戦略になりました。

NHK杯のフリーは、4回転「3種類4本」に変更しましたね。

フランス杯のあと、コーチのラファエル・アルトゥニアンと話し合って決めました。フランス杯では、4回転を5本入れていましたが、ちょっと無茶すぎる部分がありました。今季諦めてということではなく、もう少し滑り込んでからの挑戦でも良いかな、ということです。特に4回転サルコウの調子が悪くなっていたので、そういう時期に無理に練習すると悪いクセがつくということもあり、安定している4回転だけを入れることにしました。

フリーは、3種類のうち2種類の4回転を成功させました。

NHK杯は、ショートよりもフリーのほうが手応えを感じました。4回転フリップも4回転トウループも降りることができましたから。4回転ルッツは他の試合では調子が良かったけれど、とにかく大きなリスクのあるジャンプなので、本番でミスしたのは仕方ないと思います。まず今の時期は、こうやって挑戦したことに意味があると思います。

5歳から本格的なクラシックバレエ 今季はコーチ2人体制で強化
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ではこれまでの歩みについても教えてください。まずスケートを始めたのは?

3歳の時にアメリカのソルトレークシティで初めて滑りました。5人兄弟の末っ子で、兄2人がアイスホッケーをやっていて、姉2人はフィギュアスケートをしていたんです。

他のスポーツも習いましたか?

5歳の時から「バレエ・ウエスト・アカデミー」というバレエ学校に入り、練習してきました。フィギュアスケートより本格的に練習していたと思います。そのお陰で柔軟性もあったので、子どもの頃はビールマンスピンもやっていました。でも背中のケガとかもあって、最近は無理しないことにしています。とにかくクラシックバレエの基礎があるので、踊りとか表現という面では、振り付けを身体に馴染ませることができていると思います。

今季は、ラファエル・アルトゥニアンコーチに加えて、マリナ・ズエワコーチも一緒にいますね。どんな練習体制なのでしょう?

これまでずっとラファエルと共に練習してきました。彼のジャンプのテクニックは素晴らしいものがあります。ただ、今季はシニアに上がりますし、基礎のスケーティングや表現を強化するためにも、アイスダンスのコーチであるマリナの所で夏からは練習しています。パトリック・チャン選手も一緒になりましたし、とにかく刺激的な場所です。

ジャンプはそのままアルトゥニアンコーチに習っているのですか?

そうです。コーチを変更した訳ではないので。ジャンプのフォームは、ラファエルと連絡をとって見てもらいます。マリナは今季のショートを振り付けてくれましたし、アイスダンスのフットワークやエクササイズを習うことで、基礎的なスケーティング技術を磨くことが、今の僕にとって一番重要なことなんです。

アイスダンスのフットワークを習った効果は出ていますか?

もちろんです。まだまだ効果が出るのは来年かもしれません。でも4種類の4回転ジャンプを正確に跳び分けるというのは、単なるジャンプの技術ではなく、フットワークを習っていることのお陰だと思います。ジムでの筋肉トレーニングをしたあとも、その筋肉をどう氷上で使うかという部分を、マリナが指導してくれます。とても勉強になっています。

とにかく今季、そして平昌五輪にむけて楽しみですね。

今季のゴールは、まず初めての世界選手権に出ることです。平昌五輪の前年ですし、重要な大会だと思います。そして来季は、平昌五輪に出ることが目標。まだメダルなんて考えたことはないです。とにかく今季のうちに、4種類の4回転をフリーで降りることが大切。これが決まれば、来季の目標のレベルは大きく変わるでしょうし、これが僕の武器になります。順位のことは考えず、とにかく今季は4回転に集中するというのが、来季に繋がる作戦だと思っています。

2016年11月、NHK杯にて取材

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