インタビュー - Interviews -

ジェイソン・ブラウン選手
インタビュー

「技術と芸術が一体化した演技を大切に」
米国男子の五輪レースに挑む

文・野口美恵(スポーツライター)

昨季はケガのためシーズンの半分を欠場したジェイソン・ブラウン選手。今季はアメリカ杯で4回転を初めて着氷し、熾烈な米国男子の平昌五輪出場レースで、一歩前へと進んだ。今季、そして来季への思いを聞いた。

アメリカ杯で4回転を着氷 「進化のシーズンに確信」
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今季のアメリカ杯では、フリーで4回転トウループを片足で降りることができました。初成功の感想は?

本当に最高の出来事でした。4回転を試合で降りるまで、本当に長い長い旅でした。まだ回転不足の判定でしたが、とにかく片足で降りられたことが嬉しいですし、この感動は練習で初めて降りた日以来です。今季は進化のシーズンになると確信を持つことができました。

アメリカ杯のフリーは182.63点で自己ベスト、総合点も268.38点で自己ベスト更新となりました。

フリーの演技中は、とてもリラックスした気持ちで、すべての時間がゆっくり流れていくように感じました。4回転トウループを降りたことで本当に感動してしまいましたし、だからこそ素晴らしい振り付けのプログラムをしっかりこなそうと思いました。音楽に心を傾けて、ジャンプとジャンプのつなぎの演技も大事にして滑ることができました。1回成功しただけで喜ばずに、シーズン後半の試合でも決めていくことが目標です。

昨季は腰痛でNHK杯以降を欠場 リハビリの効果で4回転を強化

昨季は腰痛のために、NHK杯と全米選手権を欠場。苦しいシーズンでした。

はい。昨季のアメリカ杯でせっかく銅メダルを獲っていたのに、そのあと腰痛で、まったく滑れない状態になりました。3カ月間はジャンプの練習ができず、とにかく身体の回復、筋力の回復に努めました。完全にジャンプを跳ばない時間があったことで、身体をゼロから肉体改造しようと思い、大きなジャンプを跳ぶための筋力づくりを基礎からやり直しました。その効果があって、ケガをする前よりも全身の筋肉がうまく使えるようになって、ジャンプの飛躍が力強いものに変化したんです。より強い技術を身につける事ができました。腰痛のリハビリをしながら、身体の部位ごとのトレーニングをしていったんです。そのため、腰痛が治まって全力で動けるようになった時に、一気にジャンプもスケーティングも力強いものに変化していました。

4回転トウループの成功率も高まったようですね。

そうなんです。とても感動的な出来事でした。まず4回転トウループを今季中にしっかり固めて、来季は4回転サルコウにも挑戦できれば最高です。

4回転を成功させるための計画は?

コーチと相談しながら、自分がやるべき事を計画立ててやり遂げるのみです。唯一わかっているのは昨季、ジャンプを強化したくて何度もがむしゃらに練習した結果、疲労と無茶がたたってケガをしたということ。ですから練習方法や、効率的な計画、そして正しい練習のみをやるという事が何より大事だと痛感しています。

『007』でパワフルな男性に扮するショート フリーはピアノの音色を身体で表現する
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ショートは曲を変更しましたね。シークレットガーデンの美しい曲から、『007』の主題歌へと、一気に雰囲気を変えました。

ショートの曲は、最初はエキシビション用のプログラムでした。でもショートとフリーの曲の雰囲気が似ているということで、夏のUSチームのキャンプの時に相談して急遽、エキシビション用の曲をショートに変更したんです。『007』の映画も格好良いですし、サム・スミスの歌う主題歌も最高でしょう? この曲は、今までの僕のイメージとは全く違うもので、パワフルな男性に変身することができます。本当にワクワクするチャレンジです。

フリーの『ピアノレッスン』は、ブラウン選手に合っている美しい曲ですね。

僕の振付師である、ロヒーン・ワードが選んだ曲です。映画の『ピアノレッスン』も好きですし、テーマ曲も本当に素敵な曲です。話すことができない女性がピアノを通じて愛を伝えるストーリー。言葉を使わずにストーリーを伝えるという点で、スケートと共通するものがあるので、映画を観た時から共感できるテーマだと思っていました。

身体をつかった感情表現ということですね。

このプログラムを振り付けるときに、振付師のロヒーンと僕はテーマをこう決めたんです。僕の身体そのものが音楽となること、そして僕の身体が楽器となることで、「言葉」を伝えようと。僕の動きのすべてが、観客へのメッセージになるんです。僕の顔の表情や身体の姿勢の一つひとつが、演技を見た人たちの感情を刺激して、喜びも悲しみも、それ以外の様々な感情も感じ取ってもらいたい。それこそが、僕が「言葉」を使わずに伝えたい、僕の愛のストーリーなんです。

アメリカ杯では、「演技」「振り付け」「音楽解釈」の3つで9点台。ジャッジにもその表現力が伝わりましたね。

素晴らしい事です。僕にとっては、5項目すべてで9点台を出すことが夢なんです。アメリカ杯では、4回転ジャンプが入ったことで、やはり演技全体の力強さも高まったと思うので、単に音楽表現をしただけでなく、スケート全体が評価されたのかなと思います。「音楽解釈」が9.18点で一番高い評価でしたが、僕の場合は、一つひとつの音に耳を傾けて、それをとらえて表現しようと考えています。2シーズン滑ってきたことで、さらに自分だけのオリジナルな表現ができてきたと思います。

スケート以外で、表現力に繋がっているような練習はありますか?

特別な練習をしているわけではないんです。とにかくその音楽を愛することが大事だと思います。あと、最近は自分でピアノを弾くので、この曲への理解も深まっていると思います。以前はウッドベースを弾いていたんですが、大きすぎて大変でした。ピアノを弾いている時間はとても幸せです。

ライバルのリッポンと競い合うことで進化 「僕は観客の感情にアプローチしたい」
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いよいよ平昌五輪へのレースが表面化してくる時期です。五輪切符を争い合っているアダム・リッポン選手も表現面を追求するタイプですが、彼とのライバル関係については、どんな考えですか?

アダムのことはとても尊敬しているし、彼の演技は大好きです。お互いを刺激し合い、もっと素晴らしい表現をしよう、もっと強くなろうと進化してきました。アダムと僕は単にジャンプを競うライバルではなく、芸術面も技術面もすべての面で比較されてきました。それは本当に面白いことですし、アダムと“似た持ち味の選手”として競い合えることが、自分の成長のためにラッキーなことだと思っています。

表現を追求するという点では共通のタイプですが、リッポン選手とは表現の種類は異なりますよね。

まさにその通りです。表現を追求し合っていますが、それぞれが違う表現方法を試みているということが面白いんです。アダムは音楽そのものを表現するタイプ。ノリの良い曲や、美しい曲、音楽のテーマをそのまま伝えることができます。僕の場合は、見ている人になにか影響を与えることがゴールなんです。結果的に、誰かを幸せにしたり、悲しい気持ちにさせたり、時には傷つけたり、または勇気づけたり。そういった感情へのアプローチをすることが、僕にとっての音楽を通した芸術表現のゴールです。

平昌五輪へ向けて「計画をやり遂げるのみ」 ケガをせずに、4回転ジャンプの習得を
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2018年平昌五輪にむけて、米国男子の勢力図も明確化してきました。来季にむけて、どんな計画でしょう?

やはり4回転トウループは、ショートとフリーともに入れたいです。最高の目標としては、自分をプッシュし続けて4回転の成功率を上げて、ショートで1本、フリーで2本入れることです。でもその技術を習得するためには、とにかくケガをせずに、健康な状態で練習し続けることが大事です。もしケガをしてしまったら、五輪を目指すチャンスすら無くなってしまいますから。

米国男子の熾烈な争いを勝ち抜くためには、何が必要だと思いますか?

僕としては、自分の演技が、より芸術的な側面を持つようにと常に思って試合に臨んでいます。またジャンプやステップなどの技術面においては、技術と芸術が一体化することを大切に考えています。五輪までのプランは、毎月ごとになにをするか、自分の中では明確に計画があるので、あとはそれをやり遂げるのみです。日本の皆さん、応援よろしくお願いします。

2016年10月アメリカ杯、11月NHK杯にて取材

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