インタビュー - Interviews -

羽生 結弦選手
インタビュー

世界選手権で金を獲れないようじゃ、まだまだ
また新しい扉を開ける存在になりたい

文・野口美恵(スポーツライター)

今季は史上初の300点超えを2度果たし、“絶対王者”の呼び名も拝した羽生結弦選手。2016年最終戦の世界選手権は銀メダルとなった。どんな思いと考えが溢れるシーズンだったのか。世界選手権直後、ボストンでその胸の内を語った。

期待される点数に重圧感じたショート前 支えてくれる存在忘れ「独り善がりに」

大きな成長があった2015-2016シーズンでしたね。シーズン全試合が終わり、ホッとしていますか?

フリーの演技直後は、気持ちが言葉にならなくて、後悔して、悲しくて、もう一度フリーを滑りたかったです。試合後は、「ああ、今シーズン終わったな」という感じで、頭がボーッとしている感じでした・・・・・・。でも(2日たって)わりと落ち着いてきたので、自分のなかでは色々な精神状態が整理できてきました。

早くも分析を始めているのですね! ではまず、世界選手権に臨むあたりから、心境を聞いていきましょう。

全日本選手権(2015年12月)の後は、十分に時間があるなかで、計画を立てて練習してこれたと思います。昨季からだいぶできてきたのが、「本番のための練習」ということ。「本番のために」と思いながら練習するんです。ただ全力で毎日ずっと練習するというのは、違うと感じているので。

ボストン入りしてからは好調でしたが、ショート当日の朝練習では、自分に集中するのに苦労している様子でした。

練習を見てわかる通り、気持ちがぐしゃぐしゃでした。イライラしていましたし、(得意の)トリプルアクセルすら跳べなかった悔しさもあって、そこから練習がぐちゃぐちゃになってしまったんです。でもその後、色々と考えてみると「すごく独り善がりになっていた」と思いました。今まで支えて下さっている皆さんがいるのに一瞬、「自分ひとりが、ここまでやってきた」という気持ちになっていたことが、悔しいというか、後悔というか・・・・・・。

羽生選手はもともとファンの力やサポートする人の力を大切にしていましたものね。

そうなんです。最終的に滑るのはひとりだけれど、スケートってひとりでやってるものではなくて、支えてくれる人もいて。演技中はファンの皆さんの声も聞こえるし、拍手も力も感じる。そのなかで、実際にやるのは自分ひとりで、自分の感情や身体、精神力などが左右する競技なんです。

優勝して当たり前という周りの評価でしたから、そこが苦しかったのでしょうか?

やはり皆さんが思う基準の点数、パフォーマンスというのがとても上がってきているので、プレッシャーも感じていました。ショートの日の感覚は、いつもと凄く違っていて、五輪も全日本選手権もGPファイナルも緊張したけれど、今までの試合経験とはまったく違う心境でした。

自分自身に集中し、幸せに滑ったショート 「17年蓄積した方法論が通用した」

どうやって本番までに気持ちを切り替えられたのでしょう?

世界選手権というのは今季の集大成で、みんながこのために練習してきている緊張感がありました。それを楽しむといったら変ですが、しっかり感じながら、そういう気持ちのなかでコントロールしなければいけないな、と思いました。とにかく周りがどう期待していようと、自分が目指すプログラムやパフォーマンスは変わるものではありません。だから、最終的には自分自身に集中して、自信をもって、幸せを感じながら滑ることができたんだと思います。

ショートの演技中はどんなことを考えていたのでしょう?

気持ち良く滑っていました、それだけです。ショパンの『バラード第1番』の作曲背景であったり、演奏家、ファンの皆さんの気持ちなどを大切にしながら、気持ち良く滑れました。でもまだまだできたな、70%、という気持ちでした。

演技直後の雄叫びをみると、ものすごい闘志で滑っていたのだと感じました。「見たかー」と叫びましたが、誰に対してだったのでしょう?

「見たか!」というのはみんなに対して、あとは自分の気持ちに対してです。自分が一つの気持ちに辿り着けたので、その自分に対してです。実際には色々な感情が混ざっていたと思います。そのなかでの演技だったからこそ、すごく嬉しかったんだと思います。

国際大会では3試合連続のショート100点超えというのは、未知の世界だったことでしょう。

新しい経験のなかで、色々と試行錯誤はしました。でもスケートを始めて17年目。五輪やGPファイナル、NHK杯、それ以外にも試合なんて数え切れないほどやって色々な経験があって、その経験から方法論を導き出してきました。その自分の考え方、攻略法みたいなものが通用したというのが、良かったです。

「練習でノーミスに慣れていた」 心技体のバランスが難しかったフリー

その後、中一日空けてフリーでした。これはまた違う心境になっていたのでしょうか?

全部のジャンプを跳びたい、良い演技もしたい、フリーに向けてすごく集中したい、一つひとつの技も上手くやりたい、と思っていました。でも、そう考えるのは緊張すること。欲張って良い時もあるとは思いますけど、実際に結果としては悪かった。どんな本番でも緊張するものだけど、今回はその緊張の質にうまく適応しきれませんでした。

ミスの連鎖には驚いてしまいました。原因は追及したのでしょうか?

失敗の原因というとすごくネガティブな言葉なので自分らしくないけど、思い当たるものはあります。まず2番滑走だったこと。五輪での滑走順は抽選になるので、やはり誰しもが絶対に2番というのは経験しないといけないのですが、得意不得意はあります。(GPシリーズは最終滑走が多かったので)2番滑走というのにしっかり対処しきれなかったのが、1つです。

他にも思い当たる原因がありますか?

あと、今回の『SEIMEI』のプログラムは、一つひとつのジャンプが全部曲にうまくハマってるんですね。1個目のジャンプで崩れたことで最初がズレて、バタバタとピースが崩れた感じはあります。練習の時からノーミスというペースに慣れすぎていたのかな、と。毎日ほぼノーミス、またはノーミスのような演技ができていたんです。

慢心のようなものでしょうか?

慢心とはちょっと違うんです。慢心というと過信みたいなもの。そこまでは自信を持てていませんでした。練習は練習だし、本番は本番ですから。でも「本番のための練習」というのを意識してやってきたからこそ、の慢心もあったのかも知れません。

身体も技術も出来上がっていて。でも本番は難しいモノなんですね。

練習をしっかりやってきたということを振り返って力に変える、というのも大事。逆に、会場の雰囲気、空気を感じて力に変えることもできる。本番の力の出し方には色々ありますが、今回は身体と思考と感情、そのバランスがうまく取れなかった、そこが原因です。

来季は2つとも新プログラムに 「再び、新しい扉を開ける存在になりたい」

では来季に向けて。新しいプログラムのアイデアは?

まず、ショートもフリーも変えます。ショパンの『バラード第1番』はさすがに3年連続はできないですからね(笑)。『SEIMEI』も来季は変えますが、まだ新しいイメージはないです。ただ今季『SEIMEI』を滑らせていただいて、“表現”というものを考えるきっかけになりました。(2季前に)『バラード第1番』を初めて頂いた時は、この曲をどうやって滑っていいかわからないと思ったけれど、『SEIMEI』をやったことで曲を感じる、表現するというのを体感できて、そこから『バラード第1番』をどう感じ、どう表現するかができていったんです。だから来季は、自分が得意とする方向を突き詰めていくのか、もっと幅を広げて自分の新しい一面を出していくのか、方向性を考えたいです。

今回は左脚に痛みがあったそうですが、普段から心がけているケアなどもあるのですか?

ケアの仕方というよりは、今回(左脚のケガで)自分が考えている原因は、練習の仕方にありました。やはり演技の後半に4回転を入れることが、筋肉レベルではなく、もっと奥の方のじん帯や腱へ、衝撃が加わっていたのかと思います。たぶんプログラム前半の4回転だったら、ある程度筋肉を使って跳べているものが、後半だと筋肉がうまく使い切れず、(トウループで左トウを氷に打ち付ける時に)じん帯や腱に衝撃がいく。だからもっとこういう跳び方をすればケガのリスクがない、というものを探していきたいと思います。

技術面ももっと上げていくということでしょうか?

技術も必要ですが、身体ももっと造らないと、と思っています。ハビエルのジャンプを見ていると、やはり安定感があります。自分はまだ身体の歪みとか、バランスの崩れとかが出やすい。がっちり筋肉をつけるとかではなく、スケートの中でどういう風に筋肉を意識するかを追求していきたいです。どんなに環境が整っていなくても、自分に集中していなくても、体調が崩れていても、ジャンプの(良い悪いの)振り幅が小さくなっていけば良いと思います。

改めて、2016年世界選手権は銀メダルとなりました。

やっぱり世界選手権ってすごく大きな舞台だなと感じました。ハビエルみたいにノーミスする選手もいれば、僕みたいにミスが多い選手、パトリック(チャン)みたいに本番でフェンスにぶつかる選手も。ここにはドラマがあるなと。そして、この舞台で金メダルを獲れないようじゃまだまだだ、と凄く思いました。

最後に、今季を振り返って。

昨季もこの世界選手権(2015年、上海)を落として、その悔しさがあって今季成長できました。世界最高記録を出せて、初めて「今の自分の完璧」を試合で出せた達成感も味わえて、大切なシーズンでした。試合でのノーミスが少しずつ増えてきたという手応えもあります。まだ世界選手権直後なので悔しさも悲しさもありますが、自分の気持ちは前に向いています。今回は2位になりましたが、世界記録を持っている人間としては、また新しい扉を開ける存在になりたいと思います。

2016年4月、世界選手権にて取材

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