インタビュー - Interviews -

ハビエル・フェルナンデス選手
インタビュー

ユヅルがいたからこそ、超えた300点
2人で世界を切り開いていきたい

文・野口美恵(スポーツライター)

2016年世界選手権のフリーで、4回転3本を含むパーフェクトの演技を見せ、総合314.93点で連覇を飾ったハビエル・フェルナンデス選手。連覇への重圧と期待を背負った1年、戦略、そして今後の夢を語った。

ユヅルと2人でやる普段の練習が、いま世界で一番のレベル
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300点超え、自己ベスト更新、そして世界選手権の連覇。おめでとうございます。

色んな感情で心がいっぱいですが、それをまとめて言うと「ハッピー」ってことです。マジックで、ミラクルで、幸せで、嬉しいです。1月の欧州選手権のあと、かかとに炎症があって練習も思うようにいかず、苦しくて不安な日々でした。それを思うと、こんな素晴らしい結果を残せたなんて、本当に信じられないです。

それではまずショートの演技から聞いていきましょう。4回転トウループを成功し、4回転サルコウで転倒。2位発進でした。

ショートの時は、本番も脚の炎症で痛みがありました。試合前1か月は週に3日くらいしか練習できていないという不安もあり、複雑な感情が入り交じっていたんです。もちろん4回転1本は成功して悪い演技ではなかったので、フリーに向けて、気持ちを強く持とうと思いました。

フリーも、やはり痛みをこらえての演技だったのでしょうか?

いえ、フリーの朝練習のあと医務室に行き、超音波や赤外線、テーピングなどの処置を受け、もちろん痛み止めの薬ももらいました。そしたら不思議なことに、本番の時は痛くなくなっていたんです。マジックでした。「ああ、今までの努力は無駄にならない。準備万端だ」って思うことができました。

羽生選手はショートで12点リードしていましたが、フリーではミスがありました。その後の滑走となり、どんな気持ちで氷に乗ったのでしょうか?

もし優勝できるとしたら、僕に残されたチャンスは1つだけ、それはフリーを完璧に滑ることでした。ユヅルとの12点差は大きいですし、ユヅルがフリーでミスしたとしても、僕はパーフェクトでないと追いつけません。それに待っている間は自分に集中していたので、ユヅルの得点は見ていませんでした。

フリーはパーフェクトで、216.41点。素晴らしいスコアです。

こんな凄い点は、見たことがないです。欧州選手権も高い点が出て嬉しかったのですがまだミスがあったので、もし完成した作品として演技できたらどんな点が出るんだろうと思っていました。今季の最後にその瞬間が来たのは嬉しいです。

「僕も皆も好きなシナトラをボストンで」今季を締めくくる最高の選曲
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今季は、2015年12月のGPファイナルは母国スペインでの開催。そして世界選手権がボストン。どんな調整計画だったのでしょう?

もちろん母国で滑るのは素晴らしいことです。本当にスペインのファンは、僕の活躍を楽しみにしてくれていますから。だから今季のショートは舞曲『マラゲーニャ』。スペイン人としては、いい加減なフラメンコを踊るわけにはいかないので、ちょっとプレッシャーもある選曲でしたが、やはりスペインではすごく盛り上がりました。そしてフリーの曲は、世界選手権がボストン開催なので、それを意識して選びました。

なるほど。それでフランク・シナトラの『Guys and Dolls(野郎どもと女たち)』を!

そうなんです。昨年春に選曲する時に、ブライアン(オーサーコーチ)と振付師のデイビッド(ウィルソン)と話して、「ボストンでシーズン最後を締めくくる曲は、やっぱりシナトラだよね」って一致したんです。シナトラって、聴いていると踊り出したくなる曲ばかりでしょう? そしてデイビッドが最高の振り付けをしてくれました。

その最高のプログラムを、実際にボストンで踊ってみていかがでしたか?

最高です! シナトラありがとうって感じ。偉大な曲です。このボストンで滑りたくて1年間練習してきた曲なので、脚が痛いとか弱気なことを言っていられないと思いました。「僕も皆も好きな曲。今夜は楽しもう」って自分に言い聞かせました。

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観客もすごい盛り上がりでしたね。

ボストンでの試合は初めてでしたが、さすが米国のスポーツが根付いている街。盛り上げ方が凄かったです。拍手も声援も手拍子も熱気も、なんというか、すべてが大きなパワーの塊みたいになる。応援にとても助けられたし、ボストンは僕にとって記念すべき街になりました。

4回転ジャンプが3本も入っているとは思えないほど、楽しそうでした。

今回のプログラムは、とにかくトータル的に素晴らしいものでした。ステップが見所、とかではなく、最初から最後までどこを切り取っても楽しさを伝えられるんです。その分、ジャンプとジャンプのつなぎの演技なども詰め込まれていて、最初は大変でした。

難しい動きに見えないくらい、軽やかでした。

そう見えたなら嬉しいです。難しい事を苦しそうにやったら、見ている人は楽しくないでしょう?難しい事を簡単そうにやって皆を楽しませるのが、僕にとってのスケートのゴールなんです。

300点超えの源はPCSの評価アップ「世界のトップレベルを毎日体感した」
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今回300点を超えましたが、一番の得点源は何でしょう?

もちろんパーフェクトだったことが何より大事なのですが、一番の変化はPCS(演技構成点)が伸びたことです。実際に10点を出してくれたジャッジもいて、「まさか僕が10点満点!」という感じです。今まで、僕は4回転が得点源で、PCSの面ではユヅルやパトリック(チャン)には及ばなかった。だからこのPCSが伸びたのは、僕にとって新しいステージ。この試合で得た一番のものは、金メダルでもなく、300点でもなく、「僕はPCSで勝負できる選手になれた」ということです。

たしかにPCSを伸ばすのは、一昼夜でできることではないですものね。

そうなんです、積み重ねです。良い技術を保ち続け、良い演技を見せ続けて、ちょっとずつ評価が上がっていくもの。いつになったら僕はPCSでも評価されるのかなと、首を長くして待っていた感じです。

練習の成果のたまものですよね。

そう、これはトロントのコーチ達とユヅルに感謝です。例えば、僕が曲をかけずに4回転を跳んでも、ユヅルは目の前で曲をかけて4回転を綺麗に跳んでしまう。そうするとブライアンもユヅルを褒める。それで僕はもっと練習する。それと逆の日もあります。単に成功するかどうかではなくて、技の質を高めたり、演技全体を高めていくということは、これだけレベルの高い仲間がいないと意識できないことでした。

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そこまで高レベルなライバルは、プレッシャーになる時もありますか?

もちろんストレスやプレッシャーになる日もあります。僕の方が調子が悪い日などは「ああ僕はダメだ」と思ったり、焦ったりもします。でも才能を比べても仕方なくて、そんな事よりも、最高のスケーターと、最高のコーチと、最高の環境で、とても高いレベルのゴールに自然と向かっているということが、やはり素晴らしいと思うんです。2人がいることで、世界のトップレベルを毎日体感できるなんて、これ以上の練習環境はないでしょう!

300点超えという意味で、2人がスケートの歴史を変えたシーズンでした。

歴史に残る選手というのは、僕たち2人だけではないです。ロビン・カズンズみたいな記憶に残るエンターテイナーや、エフゲニー・プルシェンコみたいな圧倒的な選手がいて、常にその時代ごとのヒーローがその瞬間に最高の演技をしています。だから「4回転を複数入れて、プログラムもスケーティングもトータルで揃えることで300点を超える」というのは、今日という時代での最高の演技。僕は300点を超え、 ユヅルはさらに最高記録を出したということ。これからも、2人で世界を切り開いていきたいです。

ソチ4位の悔しさ胸に、平昌五輪へ最高の演技で価値あるメダルを
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300点超えの2人が4回転合計5本ですが、今季は金博洋選手が合計6本という挑戦をしてきましたね。

今季、彼と何度か同じ試合に出場し、そこで彼の滑りを見ましたが、本当に凄い才能です。3種類の4回転に関しては、なにも改善する必要がない、完璧なジャンプ。しかもまだ伸ばす所が沢山あって、スケーティングや演技はまだ伸びる。なのに、もう世界選手権で銅メダルを獲るなんて凄いことです。他にも宇野昌磨選手のような演技が魅力的な若手も伸びてきましたし、今季は選手層が変わったな、油断ならないな、という印象を受けました。

フェルナンデス選手としては、新しい4回転も考えているのですか?

いいえ、今の2種類で十分だと思っています。それよりも2種類の4回転をショート2本、フリー3本入れて、その確率を高めることが重要です。確かに4回転ループを練習で降りたことはありますが、試合では必要ないかな。フリップとルッツに至っては3回転ですら僕は結構ミスしてしまいますからね、まず3回転の練習をもっとやれって感じです。

もう平昌五輪は2年後です。目標は見えてきましたか?

もう2年後なんですよね。ソチ五輪は4位。あの悔しさはもう味わいたくないので、とにかく平昌五輪はメダルが目標です。今のレベルのまま頑張っていけば、可能性はあると思うけれど、2年というのは何が起きるかわからないですから、気を引き締めていきます。世界選手権と違って、五輪のメダルというのは本当に選ばれたスケーターだけが到達できる場所なんです。

平昌五輪のメダルのために必要なことは?

戦略的なプログラムが必要だと思います。来季は何にするか、そして五輪シーズンは何にするか、まだ何も決めていませんが。そしてあとは、ゴールに向かって落ちついて冷静に進むことです。もちろん金メダルなら嬉しいけれど、金じゃなきゃダメとは思っていません。金メダルを目指して練習して、最高の演技ができたなら、もし最終的にそれが銅メダルだったとしてもいい。それは僕のスケート人生において価値があるメダルだからです。

本当に連覇おめでとうございます。そして平昌五輪に向けて頑張って下さい!

2016年4月、世界選手権にて取材

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