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スポーツライター野口美恵のプレスルーム 大会レポート

ロシア、米国、日本の3強時代が明確に
日本は5位、7位、8位で3枠確保

文・野口美恵(スポーツライター)

「世界選手権2016」が3月30日?4月3日、米国ボストンで開催され、女子は、日本・ロシア・米国の3強が1~8位を締める“3国対決”を印象付ける一戦となった。優勝は初出場の16歳エフゲニア・メドベデワ(ロシア)、銀メダルはアシュリー・ワグナー(米国)、銅メダルはアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)で、3人とも初の表彰台。日本女子は来季の「3枠」を手に入れた。

宮原が5位「世界のレベルが上がっている」
本郷も自己ベスト更新するも8位

昨季の世界選手権で銀メダルの宮原は、2年連続の表彰台を目指しての出場。今季は、GPファイナル2位、全日本選手権連覇、四大陸選手権優勝と、ほぼミスのない演技で成績を残してきた。

ショートは『ファイヤーダンス』の力強いメロディに合わせて、情熱的な演技をみせた。GPファイナルでスペインに行った際にフラメンコのレッスンを受け、目線や手の使い方で観客をどんどん引きこむとスタンディングオベーションに。しかしジャンプの回転不足があり、自己ベストは更新できず70.72点の6位発進となる。
「70点を超えることはできて、演技としては悪くなかったと思います。でも明日はもっと思い切っていきます」と話した。

フリーはその宣言通り、エネルギーを体中から発するような滑りだった。リストの『ため息』の美しい音色にあわせ、溶け込むようなジャンプを決めていく。最後のレイバックスピンは全ジャッジが「+3」をつける最高の質で、総合210.61点と、昨季の同大会より17点上回る高得点だったが、上位がみな好演したこともあり総合5位となった。

「ロシアや米国の選手たちが、みんな世界選手権にむけて調整してきていました。世界のレベルは上がっています。来季にむけてはバレエをもっとしっかり習って表現力を磨いて、スケートも基礎からやり直します」と誓った。

また本郷は、ショートと総合点で自己ベストを更新する会心の滑りをみせた。ショートは、シルク・ドゥ・ソレイユの『キダム』で、スピード感のあるジャンプを次々と成功。心の底からの情熱をぶつけるような演技と、音楽のリズムをしっかりと捉えたフットワークで、不思議な世界を見事に表現し、69.89点をマークした。

「65点台が自己ベストだったので、4点も更新できてビックリしています。演技構成点が31点も出たのは、今季にステップや表現をしっかり練習してきたのが評価されたと思います」。

さらに、フリーの『リバーダンス』は、演技が始まった直後から、生き生きとした笑顔がこぼれる。心から演技を楽しんでいるのが伝わってくる滑りで、演技中盤から手拍子が起き、演技を終えると満場のスタンディングオベーションに頬を赤らめた。総合199.15点と、あと少しで200点というところまで得点を伸ばし8位。世界のトップグループ入りしたといえる結果だった。

「憧れの選手たちと一緒に試合に出ているという喜びがあったので、その気持ちのまま楽しく滑りました。でも嬉しかったからこそ、最後のジャンプでミスがあったのは悔やまれます。この悔しさを来季に繋げたいです」と語った。

「復帰しない方がよかったと思った時期もあった」
浅田は手応えのフリーで、来季へ意欲

また1年の休養あけのシーズンとなった浅田は、来季への手応えを掴む一戦だった。ショートでは、冒頭のトリプルアクセルで転倒すると、波に乗ることができずにジャンプでミスが続いた。それでもジャズのスタンダード『素敵なあなた』で、25歳の真骨頂ともいえる色気漂う演技をみせると、表彰台圏内の65.87点で、9位発進となった。
「トリプルアクセルは自分の武器でもあるのですが、気持ちが空回りすると良い方向にいきません。もちろん跳びたい気持ちはあるけれど、フリーは(トリプルアクセルに固執せず)自分の表現したい演技や感情を大切にしたいです」と話した。

フリーは『蝶々夫人』。ピンカートンの帰りを信じ、待ち続ける女性のストーリーだ。「待ち続ける女性と、芯のある女性。その2面を演じたい」と浅田。演技後半で「私はあの方の帰りを待つわ!」というマリヤ・カラスの熱唱にあわせて、力強さと切なさの溢れるイーグルをみせ、観客の胸を打った。

ジャンプではいくつかの減点はあったが、全体をまとめると、フリー134.43点、総合200.30点。今季の自己ベストをマークしての7位となった。演技を終えると「ほーーっとしました」と安堵の笑みをみせた浅田。

「復帰したものの上手く行かないことの方が多くて、復帰しない方がよかったのかな、自分たちの時代は終わったのかな、という風に思った時期もありました。アスリートである以上は、上位を目指すのが当然と思っていましたが、なかなか思うような結果がついてこないなか、世界選手権に向けては違う考えを持とうと思いました。今回は、自分のやりたい滑り、伝えたいものを、たくさんの方に見てもらえたなと思うので、復帰してよかったと思っています。(24歳の)アシュリー・ワグナー選手が銀メダルを獲ったことは励みになりました。表現することも、結果を求めることも両方できるのが理想なので、来季に向けてまた一歩一歩進んでいきたいです」

復帰後の苦しさを吐露しながらも、そう語った浅田。来季への意欲を口にすると、笑顔でうなずいた。

日本女子は、2人が200点を超えながらもメダルは無し。一気に世界のレベルが上がるなか、2年後の平昌五輪に向けて、さらなる成長を喫する結果となった。

メドベデワがフリー世界記録で優勝
16歳、シニア初シーズンの快挙

2016年の世界女王をめぐる争いを制したのは、今季のGPファイナル女王のエフゲニア・メドベデワだった。メドベデワのジャンプは、何と言っても回転軸が細く、片手や両手を挙げたまま回転するなど、より難しくすることで加点も狙える。今季からシニアに上がったばかりだが、このジャンプを武器に快進撃を続けてきた。

しかし初出場となる世界選手権、そして普段はNHLリーグが行われる大会場を埋め尽くす2万人の“米国”の観客。16歳の少女は、今季初めての気後れを体験する。
「満員のお客さん。しかもリンクサイドのギリギリまで客席で、滑っている目の前に観客がいる。これは大きな舞台に立ったんだなと感じました」
珍しく3回転フリップの着氷が乱れると、演技全体もやや控えめで、自己ベストには及ばない73.76点で3位発進となった。

もちろん今季に爆発的な成長をみせてきた天才少女は、ここから覚醒した。フリーは映画『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』のテーマ曲。マドンナが監督し、ゴールデングローブ賞で主題歌賞を受賞した作品で、米国の観客を味方につけた。すべてのジャンプを1つ1つ決めるたびに、拍手と声援の音量はだんだん大きくなっていく。フットワークも難度の高い技のオンパレードで、最高の技術力を示した。

フリーは150.10点で、キム・ヨナが2010年にマークした世界記録を6年ぶりに更新。総合223.86点で逆転優勝を飾った。前年のジュニア女王が、世界選手権を制するのも初という記録尽くめの勝利だった。

「今日はさすがに緊張して、最後のジャンプはもう、生きるか死ぬかという気持ちで跳びました。優勝したなんて実感がありません。びっくりして感情がまだ沸いてこないくらい。今日という日は、人生でも忘れられない輝く日になることでしょう」と興奮気味に語った。

ワグナー、24歳で悲願の銀メダル
ポゴリラヤも覚醒の演技で感涙の銅

一方、米国の観客の心をもっとも掴んだのは、ワグナーだった。ショートは『Hip Hip Chin Chin』のリズムにのって、陽気さとセクシーさが爆発。観客は、手拍子だけでなく一緒に肩や頭を揺らし、まるでスケート会場がダンスホールになったかのような盛り上がりをみせる。2位3位に1点圏内という73.16点で4位発進となった。
「米国の伝説、ミシェル・クワンを思い出しました。彼女に近付くことができたのではないか、と思えるくらい、観客の声援に押されて滑りました!」と感激の様子。

そしてフリーは、ワグナーの人生のなかでも名演といえる内容となった。『ムーランルージュ』のテーマ曲からのメドレーで、次々と変わっていくメロディを、多彩に演じわける。『One day I’ll fly away』のパートでは、まさに彼女が新しいステージへと登っていくのを投影するかのような、自信と希望に満ちあふれた滑りをみせた。初めて出場した2008年世界選手権は16位。そこから6度目の挑戦となる今季、24歳で初のメダル獲得である。彼女のスケート人生を知る米国の観客の中には、涙をぬぐう姿も。総合215.39点での銀メダルとなった。
「母国でこんな最高の演技をできた事がなにより嬉しいです。順位のことなんて全く考えず、心をこめて滑りました。そして銀メダル!10年越しの夢が叶いました」そう言うと、ワグナーの頬を涙が伝った。

さらにアンナ・ポゴリラヤも感涙の銅メダルとなった。ソチ五輪シーズンに頭角を現したものの、強豪ロシア女子のなかでは常に3、4番手に甘んじ、五輪出場も逃した。虎視眈々とジャンプ力とフットワークを磨いてきたポゴリラヤの、その実力の蓄積が、とうとうこの世界選手権で爆発した。

ショートは「とにかく集中して、冷静に滑りました」と言い、パーフェクトな演技で2位発進。フリーは『シェヘラザード』の畳み掛けるようなメロディに乗り、ポゴリラヤのスピード感が冴え渡る。ダイナミックなジャンプをすべて降りると、思わずガッツポーズも。213.69点での銅メダルとなった。
「今日ほど1日を長く感じたことはありませんでした。大きな成長となるシーズンでした」と話し、ホッとした様子をみせた。

悔しい思いをしたのは、グレイシー・ゴールド(米国)。ショートのタンゴ『エル・チョクロ』では最高の演技で76.43点の首位発進。ところがフリーはジャンプミスが相次ぎ、4位に後退した。
「母国の観客の前で、恥ずかしい演技をしてしまいました。この経験を糧に出直します」と肩を落とした。

女子は2位から6位までが5.58点差の間にひしめく激戦。それだけベストの演技、そして最高の感動が生まれた、2016年の世界選手権だった。

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