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スポーツライター野口美恵のプレスルーム 大会レポート

羽生「悔しい」銀メダル、宇野は7位
フェルナンデスが連覇を達成

文・野口美恵(スポーツライター)

今季のクライマックスとなる「世界選手権2016」が、3月30日~4月3日、米国ボストンで開催された。男子は、ショート首位の羽生結弦はフリーでミスがあり惜しくも銀メダルとなった。チームメイトのハビエル・フェルナンデス(スペイン)が逆転での連覇を達成、脅威の4回転ジャンパー金博洋(中国)が3位で、パトリック・チャン(カナダ)は5位となった。宇野昌磨は7位につけ、日本は来季の「男子3枠」を確保した。

世界タイトル保持者の3選手
ショートでは一歩リード

今大会の前に予想されていたのは、世界王者経験者の3人によるハイレベルな激戦。しかもその3人の自己ベストは、羽生が330.43点、フェルナンデスが302.77点、チャンが295.27点で、世界ランク上位の3人である。ショートはまさに、この自己ベストのランキング通りの展開になった。

羽生にとっては、昨年のNHK杯、GPファイナルと連続でパーフェクト演技を達成しており、ノーミスを当然のように期待される大会。試合前日にも「ノーミスでいきたいです、完璧にやりたい」と発言していた。しかしその後、「ノーミスと言ってしまったことが、ずっと心に引っかかっていた」と言う。これまで「ノーミスでいきたい」と考えた試合は、結果への欲が気持ちを乱し、いつもミスをしていたのだ。

本番朝の練習ではペースを乱し、イライラからかミスを連発した。ブライアン・オーサーコーチは「とにかく深呼吸して落ち着いて」と声を掛けたが、焦りは募るばかり。しかし部屋に戻ってから羽生は自問自答し、「なぜか独り善がりになっていた。支えてくれる人がいるのに『自分一人が(頑張っている)』という気持ちになっていた。結果にこだわるのではなく、とにかく一つひとつやるだけだ」と感じたという。

そして迎えたショートは、4回転サルコウ、4回転トウループ+3回転トウループ、トリプルアクセルと、一糸乱れぬジャンプを披露。演技を終えた瞬間に、「よっしゃー」と雄叫びを上げるほどの闘志だった。

「色々と試行錯誤しましたが、17年間のスケートで蓄積した自分の攻略法が通用したな、という感覚です」と笑顔をみせる。110.56点で首位となった。

現世界王者のフェルナンデスも、2本の4回転に挑んだ。羽生が2015年12月のGPファイナルで330点超えを果たしたのを見たフェルナンデスは、「僕も結弦と同じレベルのジャンプを入れて戦っていきたい。ショートでの4回転は今まで1本だったけど、2本にする」と自らコーチに申し出て、2本を決意した。しかし本番では、冒頭の4回転+3回転は成功したものの、4回転サルコウは転倒。98.52点の2位発進となった。
「やはり2本というのは大きなリスクがあります。でも挑戦する価値のあること。後悔してないし、フリーで全力を出します」と誓った。

チャンは4回転を成功したものの、トリプルアクセルで転倒。それでも、スピードと滑らかさのある一級の滑りで魅せると、演技構成点は47.21点で高得点をマークした。94.84点での3位発進に、「1シーズン休養してから迎えた今季は、色々なことが新しく、挑戦でした。素晴らしい進化をしている2人の次点につけて、十分に満足です」と話した。

トップ3のリードについてきたのは、宇野。見事に4回転を成功し、90.74点で4位発進となった。スケート技術や音楽解釈など表現面で高い評価を得ての高得点。それでも本人は、「4回転とトリプルアクセルは、不安だったなかで本番よく成功させたなと思います。でも確実と思っていたジャンプでミスがあり、すごく高い点を頂いたのですが喜べていないです」と硬い表情だった。

フェルナンデスが300点超え
4回転合戦となった激動のフリー

やはりフィギュアスケートは、フリーが終わるまで結果はわからないもの。ソチ五輪のショートで16位発進となった浅田真央に佐藤信夫コーチが「まだ演技は3分の1。落ち込んでいる場合じゃない」とカツを入れたエピソードがあるが、まさにドラマはフリーで起きるということを痛感させられる一戦だった。

フリー当日、朝の練習時から調子が上がってこなかった羽生。6分間練習の冒頭でも得意のトリプルアクセルをミスするなど、いつもと違う様子。本番ではスピードがいまひとつ乗ってこない。3本の4回転に挑戦したものの、4回転サルコウは2本ともミス。さらに自信のあるトリプルアクセルもオーバーターンになるなど、乱れた。演技を終えると、膝に手を突いて荒い息を繰り返す。会場が暑かったせいもあるが、異常なほどに汗をかいていた。

ジャンプミスが多かったことから、「GOE(加点)と演技構成点で稼ぐ」という高得点源を失った羽生。184.61点と、自己ベストより35点近く低いスコアを見ると、無表情のまま目を閉じた。
「とにかく緊張していました。全部のジャンプを跳びたい、良い演技もしたいと思っていました。欲張りすぎて結果としては悪かったので、色々と考え直さないと。どんな本番でも緊張するものだけど、その緊張の質にうまく適応しきれませんでした。この大舞台で金メダルを獲れないようじゃ、まだまだ。来年また頑張ります」と唇を噛んだ。

一方、“魔法のような瞬間”を味わったのはフェルナンデスだった。ここ数ヶ月、靴が合わず右のかかとに炎症をかかえており、ショートの翌日も痛みから練習を休むほどだったが、本番直前に超音波治療を受けると、あとは集中力で痛みを忘れたという。

3本の4回転と2本のトリプルアクセルという、羽生と同レベルのジャンプをすべて成功。米国の伝説的歌手フランク・シナトラの『野郎どもと女たち』に合わせて、絶妙な軽いキレ味のステップを披露。米国の観客は最初から最後まで興奮し、手拍子と声援が止まらない。まさにフェルナンデスと観客と氷のすべてが一体となるような演技をみせた。

4回転トウループとサルコウに満点の「+3」がつき、さらに振り付けと音楽解釈も満点の10点をマーク。フリーは216.41点、総合314.93点で、大逆転の優勝となった。
昨年の優勝のあとは、連覇を目指して色々なプレッシャーと戦うシーズンでした。ボストンでの世界選手権だったので、米国の観客と一緒に楽しめるようにと思ってシーズン始めに選んだプログラム。最高の時間でした」と自信に満ちた笑顔をみせた。

また、大健闘をみせたのは金博洋。ショートでも2本の4回転を入れて5位につけていたが、フリーは4本の4回転に挑戦。2月の四大陸選手権ではすべて成功させて“史上初”を記録していたが、今回は着氷が乱れる場面も。とはいえ4本入れたという快挙に変わりはなく、総要素点(技術面)は104.99点と100点超えをマーク。逆転での銅メダルとなった。
「今季は、とにかく全ての試合がチャレンジでした。リスクのある4回転を跳び、すべての試合が経験になりました。来年は演技面も磨いていきたいです」と語った。

またショート3位で表彰台は確実と思われたチャンは、ジャンプミスが相次ぐ。4回転トウループが3回転に、トリプルアクセルが1回転半に、3回転フリップが2回転にと、ジャンプの基礎点を失う痛恨のミスで、フリーは8位、総合5位となる。
「とにかく僕の目標は2年後の五輪。来季どうするかはオフの間に考えたい」と話し、肩を落とした。

20000人、満場の観客が興奮
米国男子はパワーをもらって活躍

今大会で特筆すべきは観客の大歓声とノリの良さだった。もともとフィギュアスケート好きな上に、イベントでの一体感も格別だ。大技を成功した選手には、国籍を問わず大拍手や「ワオ」「ヒュー」と歓声が飛ぶ。ほぼ満場の約2万人の観客は、その声の大きさも格別である。

この声援を確実に味方につけたのは、やはり母国米国の男子だった。フリーで15番滑走となったマックス・アーロンは、2本の4回転サルコウ、2本のトリプルアクセルと、次々に大技を成功。最後のスピンを回り始めると、まだ音楽が鳴っているうちから観客は立ち上がり、満場のスタンディングオベーションを送った。フリーは7位、総合8位となる。

続いて18番滑走となったアダム・リッポンは、フリーの冒頭で4回転ルッツに挑む。惜しくも回転不足となったが、その大技へ近づこうという意欲に、米国のファンは一気にテンションが上がった。続くトリプルアクセルを成功させると、まだジャンプは残り6本あるというのに手拍子が始まる。大歓声と『ビートルズメドレー』のサウンドに背中を押され、リッポンは続くジャンプすべてを成功し、フリー4位、総合6位と、存在感を示した。

リッポンが演技を終えてリンクサイドに戻ると、盟友を待っていたアーロンとハグ。母国開催の世界選手権で、それぞれが力を発揮して自己ベストを更新した、その最高のひとときを分かち合った。

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終わってみれば、表彰台に乗ったのはショート、フリー合計で「4回転を5本または6本」跳ぶジャンパーたち。男子のスーパー4回転時代を実感させられる一戦だった。

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