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スポーツライター野口美恵のプレスルーム 大会のみどころ

300点時代の異次元な戦いとなる男子
女子は演技力と滑りでアピールを

文・野口美恵(スポーツライター)

2015~2016シーズンのクライマックスとなる「世界選手権2016」が、3月30日~4月3日、米国ボストンで開催される。今季は、男子は羽生結弦が300点超えを果たしたことで一気にレベルが上がり、スケーターにとっては過酷な戦いに。一方の女子は、ジャンプ力での大きな変化はなく、むしろ滑りの個性や基礎力で差を付ける展開になりそうだ。

羽生、フェルナンデス、チャン
ハイレベルな三つ巴の展開に

これほどまでにハイレベルな時代が男子に到来すると、一体誰が予想しただろうか。ここ2年にわたり、男子の世界最高点は、2013年のフランス杯でパトリック・チャン(カナダ)が記した295.27点。チャン自身も、また羽生結弦やハビエル・フェルナンデス(スペイン)ら世界王者にしてもその記録を超えることはなく、「男子は300点を超えられるのか」が1つのテーマとなっていた。

ところが今季、羽生はNHK杯で322.40点、そしてGPファイナルで330.43点と、大幅に世界記録を更新したのだ。その大飛躍の得点源は、4回転。ショートで2本(2種類)、フリーでは3本(2種類)を、しかも加点がつくような美しい跳躍で成功させた。それまでショートでの4回転は1本、フリーでは2本が世界の表彰台の目安と考えられていた常識を、一気に覆したのだ。

その記録に反応したのは、やはり世界王者のフェルナンデスと、世界選手権3連覇の記録をもつチャン。フェルナンデスは2016年1月の欧州選手権で、300点超えを果たして優勝。チャンも2月の四大陸選手権でフリーの200点超えを果たし、総合300点超えをすでに射程圏内にしたのだ。

ハイレベルなスコア合戦を繰り広げる3者が、この世界選手権で一堂に会するのだ。この3者がそれぞれのベストを尽くしたなら、もはや表彰台争いに他者の入る隙はないだろう。

4回転は「本数」と「成功」だけではない
飛距離や跳び方など「質」を求められる時代

とはいえ、試合は始まってみなければわからないもの。この3者の戦いに食い込む力を見せている1人が、今季からシニアに上がった金博洋(中国)。まだ滑りの硬さから演技構成点が上がらないが、4回転ルッツを含め、ショートで2本、フリーで4本の4回転を入れる。2月の四大陸選手権では、合計6本の4回転を見事に成功させ、289.83点をマーク。これは、まさに羽生、フェルナンデス、チャンの自己ベストに次いで世界4位の記録だった。世界選手権に向けて滑りをもっと磨いてくることを考えれば、300点超えも十分に可能だ。

ここに続くとすれば、日本の新たな期待の星、宇野昌磨だろう。今季はショートで1本、フリーで2本の4回転を入れており、GPファイナルは羽生、フェルナンデスに次いで銅メダルを獲得。まだ波はあるが、滑りそのものに柔らかさと強さの緩急があり、多くの魅力を秘めている。ジャンプ成功の可否に拘らず、上位に食い込める得点を期待できるスケーターへと成長した。

また今季は怪我に悩まされているデニス・テン(カザフスタン)も、その治癒の状況によっては表彰台に乗る実力がある。ロシアで練習していた時代のバレエ的な踊りと、アメリカで練習するようになってから磨いたジャンプ力。どちらも一流といえるレベルまで磨いており、バランスが良い。今季のプログラムはとても芸術的な作品に仕上がっているだけに、怪我さえ治れば魅力ある演技を披露してくれるはずだ。

また米国勢として、4回転サルコウの美しいマックス・アーロン、4回転ルッツに果敢に挑み続けるアダム・リッポンが登場する。個性溢れる滑りに注目したい。

いずれにしても男子は、上位10名以内が「フリーで4回転2本」という時代。もはや4回転の成功の可否ではなく、いかに質の高い4回転を跳ぶかという勝負になってくる。

スピード感、飛距離、高さ、流れ、難しい入り方、難しい降り方。質の高いジャンプにするためのアイディアは選手によって違う。この選手はどんな特徴の4回転に挑んでいるのかが、10位以内のトップグループでの、順位の分かれ目になるだろう。

女子の大技は「3回転+3回転」で一律
ジャンプは質で差を付ける時代

女子は、かつてない混戦となる予感。もちろんGPファイナル優勝のエフゲニア・メドベデワ(ロシア)、そして2位のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)、さらには四大陸選手権優勝の宮原知子らが上位にくることが予想される。しかしほとんどの選手のジャンプ力が均衡しており、1つのミスでも一気に順位が変わる状況のため、むしろ1つくらいのミスはカバーできるような演技力や滑りを持つ選手が有利といえるだろう。

まず女子の世界情勢的には、ショートで「3回転+3回転」を、フリーでは「3回転+3回転」を2種類入れる、というのが最高のレベル。トリプルアクセルをコンスタントに決めているのは浅田真央のみで、結局のところ女子の必須カードは「3回転+3回転」となっている。

そうなると、この「3回転+3回転」の安定感がまず必須。この点では、メドベデワ、ラジオノワ、宮原、そしてアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)が一歩リードしていると言える。

一方で「3回転+3回転」の質、つまり加点という面も重要なポイントとなる。ダイナミックな飛躍を持つのは、グレイシー・ゴールド(米国)、アシュリー・ワグナー(米国)の2人。猛スピードのなかで跳ぶジャンプには見応えがある。また、無駄な力のない軽やかさでジャンプの加点を狙えるのは、浅田真央やメドベデワ、ラジオノワあたりだろう。

ジャンプよりも、個性的な滑りに注目
いかに記憶に残る演技をするか

もちろんジャンプだけが勝負ではない。300点超え時代を迎え4回転勝負になっている男子に比べると、むしろ演技構成点での得点差のほうが勝敗を分けることになりそうだ。

その点では、やはりベテラン勢の滑りには安定感と魅力が備わっている。25歳の浅田、24歳のワグナーの2人は、ジャンプの成功の可否にかかわらず、プログラムの世界観を崩すことなく最後まで滑りきる力を持っている。もしミスがあったとしてもドヤ顔を崩さないワグナーと、ミスに影響されることなく芸術性を追求する浅田の2人からは、他のスケーターも学ぶものが多いだろう。

また今季に演技面を急成長させている若手のフレッシュな魅力にも注目したい。メドベデワは16歳とは思えない情感たっぷりの演技を披露し、宮原は恥ずかしがり屋の性格を克服して色気や女性らしさをアピール。ラジオノワは、もともとの可憐な滑りに力強さを加えたことで、滑りに伸びやかさが出てきた。

本郷理華も、ショートの『キダム』とフリーの『リバーダンス』ともに、手足の長さを活かして、全身を使ったエネルギッシュな演技を見せる。ジャンプに気を取られることなく踊りきることで、演技面の成長を見せてくれることだろう。

さらに女子は表彰台には絡まないとしても、個性溢れる選手が次々と登場。カザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエワのノーブルな演技、李子君(中国)の軽やかな重力を感じさせない滑り、マエ・ベレニス・メイテ(フランス)の筋肉の弾力を感じさせるジャンプ、ジョシ・ヘルゲション(スウェーデン)の氷に食い込んでいくような深いエッジワークなど、心に刻まれる名シーンが、至る所に散りばめられている。

どうしてもジャンプの成功の可否に注目しがちだが、今季の女子はぜひ、「この選手はどんな個性を持っているのか」を想像しながら、その滑りに注目して欲しい。

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