フィギュアスケートを100倍楽しく見る方法 - Ways to Enjoy Watching Figure Skating -

シーズンの流れ

フィギュアスケーターのシーズンの流れ

村主 章枝 × 聞き手・野口美恵(スポーツライター)

冬季スポーツの花形、フィギュアスケート。氷上で繰り広げられる華麗な戦いは、冬場の話題に欠かせない競技のひとつとなった。それでは、スケーターたちは夏の間は何をして過ごすのか、そして冬季のシーズンはどんな計画で過ごすのだろうか。現役スケーターとして活躍する村主章枝さんに、1年間の流れを聞いた。

4 シーズンオフがスタート まずは新プログラムの振付
振付師のローリ・ニコル(右)

観戦してくださるファンの方からすると、大きな大会が終わり4月を迎えると「シーズンオフ」でしょう。しかしスケーターにとって4月は、新しいシーズンの始まりです。早くも、新シーズンのプログラム作りが始まります。

最近の選手は、海外の振付師のところへ作りにいくことが増えました。私が10代の頃はまだ海外で振付というのは一般化していませんでした。カナダのローリー・ニコルがミシェル・クワンの「サロメ」を振り付けて、少女みたいだったクワンがガラッと印象の違う演技をして世にインパクトを与えたんです。それが「振付師」という専門の職業が広まった先駆けになりました。

日本人もここ6、7年くらいは頻繁に海外に行っていますね。海外の振付師の所まで行くのがいいか、国内で自分のコーチや振付師にお願いするのがいいか、どちらも一長一短があります。海外の方は、発想が違ったり、見せ方が上手ですね。でも離れている分、実際に滑り込んでみてから不都合があったり、細かい部分を修正したいときに、お願いできない。演技は緻密に考えて作られているので、勝手に一部分変える、というのは難しいんです。

国内の先生なら、そういった練習場での変化に対応していただけます。最近はルールが複雑化してきていて、いかに細かい技でポイントを取るかが重要になり、日々の練習で連携が取れる方が振付けをしてくださることのメリットが、見直されつつあるように思います。

振付の期間は、振付師によりますが、ニコライ・モロゾフは早いし、ローリーは1週間くらいでしょう。やはり同じ振付師でずっと作ってもらうと、傾向や作品が似てくるので、振付師を変える選手も多いですね。

7 体力づくりは7月から ハードな練習が幸せな冬に繋がる
サロメで情熱的な演技をしたミシェル・クワン

なるべく4、5月のうちにプログラム作りを終え、6月はちょっと休んだり緩めの練習をする選手が多いでしょう。そして、7月からはシーズンインに向けて、体力づくりも含めたトレーニングが本格化します。練習としては夏が最も重要で、夏の間にどれだけ体力をつけたか、新しいジャンプを身につけたか、で、幸せな冬を迎えられるかどうかが決まります。

強化指定選手を対象にした全日本合宿も、7月末~8月くらいに行われます。また各地のリンクは、夏休みの子供たちが練習するため混雑していることもあって、国内外で合宿する選手が多いです。私が練習している新横浜スケートセンターも、選手のための練習時間は細かく分けて分散させているので、朝連は午前5時ごろから始まります。なかなか練習が難しいので、私の場合は海外合宿に行きます。そうはいっても、マッサージなどの身体のケアも受けたいので、海外での練習は3~4週間が限界です。

シーズンインが近づくと、プログラムを、ジャッジやテクニカルスペシャリストの方に見ていただき、アドバイスを貰うこともあります。ジャンプ構成やステップなどは、芸術系に走り勝ちな振付師とは別に、採点側の目線も必要な場合があるからです。

9 9月からシーズンスタート GPファイナル、信夫先生の涙
GPファイナルで日本人初優勝を飾った村主選手

地方大会や小さな試合は9月くらいから始まります。世界選手権は3月ですから、身体のピークを3月に合わせると考えると、9月はまだまだ助走の時期。まずは外国の地方都市で行われるような小さな大会などに出場して、新しいプログラムの評判を確かめたり、更新された採点基準の点数の出方を確認したりします。実際には私は、フィンランディア杯など、中規模大会に出場したことがあります。 グランプリ(GP)シリーズは10月からですね。日本、中国、アメリカ、カナダ、ロシア、フランスの6カ国で行われ、上位選手によるGPファイナルは毎年違う都市で行われます。

忘れもしないのは2003年のアメリカ・コロラドで行われたGPファイナル。日本人としてはじめて私がGPファイナルで優勝したのですが、佐藤信夫先生が泣いたんです。信夫先生は現役時代、全日本選手権を10連覇したのですが、日本で最初の世界選手権で表彰台を目指せる選手として活躍していました。そして1965年にコロラドで行われた世界選手権で、素晴らしい演技をしたけれど、結果4位だったんです。先生にとっては思い出深い試合だったんでしょう。その同じコロラドの地で、教え子の私が世界大会で優勝したので、感慨深かったのだと思います。

でも私としては標高1800mのコロラドでの試合は、本当に苦しかったです。高地対策なんて言葉くらいは当時から言われていて、早めに現地入りしたりはしましたが、体力的には本当に苦しい試合でした。

12 12月末に全日本選手権 ピークをどこに合わせるか
「大切なのはどこにピークを持っていくか」

GPシリーズが終わると、次はシーズン前半戦でもっと大切な全日本選手権です。最近は12月末に行われています。

大切なのは、どの試合をピークにするかという意識です。どんな選手でも、1シーズンずっと調子が良い、というのは無理です。1つひとつの試合で一喜一憂しないよう、無理に全ての試合でピークを持ってくるのではなく、ピークを合わせる試合を考えなければなりません。最近はGP大会が華やかになり成績も重要視されるようになったので、難しいとは思いますが、やはり全日本選手権は重要な試合です。

私の場合は、夏の間に作った体力もプログラムも、この12月にピークを迎えるように計画してきました。選手としては毎試合頑張りたくなるものなので、ここはコーチがうまくコントロールしてくれることもポイントです。

1 再び体力作りと見直し 1月は折り返し地点

12月末の全日本選手権で活躍し、四大陸選手権(2月)や世界選手権(3月)への出場権を獲得すると、しばらく大きな大会はなく、2月まで少し時間が空きます。ここでは夏に作った体力の貯金が無くなっているタイミングなので、ハードな練習で体力を作り直す時期です。また、体力作りのほかシーズン前半の採点の出方を参考に、振付けを修正したりします。オリンピックの年は2月頭に試合が入るので、早めの調整をしていましたね。

3月末に行われる世界選手権は、出場できることが誇りになる試合なので、私の場合どんなに練習をしても疲れを感じなかったです。とにかく1年間練習してきたすべての力を出し尽くす大会でした。そして、世界選手権が終わると、気付いたら桜のシーズンになっています。桜を見ると、今年も乗り切ったな、頑張ったなって思いますね。もちろんいい年、悪い年、いろいろありますが、桜とともにシーズンが終わり、ホッとしたり反省したりします。

10代、20代、調整が変わる 27歳くらいで体の転機
年齢によって試合への準備も変わる

ここ数年は、年齢のせいもあって体調管理が難しくなりました。以前に比べてもシーズンの過ごし方や、試合への準備も変わってきました。

10代の時は何も考えずに、ただ試合に行っていました。27歳くらいで、ぐっと体力に変化があったのですが、五輪出場もあって気持ちがバタバタしていたので、身体とちゃんと向き合わずにいました。20代前半でやっていた調整の仕方、試合のピークの作り方、体力が回復するまでの時期、すべてが合わなくなっていました。それまでは、練習で追い込んでピークに持っていくのに1週間くらいだったのが、そのピークの上がりが遅くなってきました。色々と試行錯誤して、ここ2年でやっとパターンが分かってきたところです。

今年もまだシーズン途中。いい演技ができるよう頑張りたいです。

村主 章枝

村主 章枝/Fumie SUGURI 表現力豊かで「氷上のアクトレス」と称される日本を代表する元フイギュアスケート選手。スピード感溢れる滑りと、軽やかなジャンプで世界中のファンを魅了。全日本選手権では3連覇を含む優勝5回、2003年グランプリファイナル日本人初優勝、2006年世界選手権2位、四大陸選手権優勝3回、ソルトレイクシティ五輪5位、トリノ五輪4位という快挙を達成するも、2014年11月、ファンに惜しまれつつ引退。現在は日本とカナダを拠点に、振付師・コーチとして活動を開始。

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