フィギュアスケートを100倍楽しく見る方法 - Ways to Enjoy Watching Figure Skating -

豆知識

フィギュアスケート豆知識

村主 章枝 × 聞き手・野口美恵(スポーツライター)

スケーターたちの美しい演技に魅了されるフィギュアスケート。しかし実際に選手が何を考えて滑っているのか、またどんな練習をしているのか、などは意外と知られていないもの。そこで、日本を代表する元フィギュアスケート選手の村主章枝さんに、フィギュアスケートの観戦がより身近になる「豆知識」をお聞きしました。

Q1 フィギュアスケートの靴や刃はどんな形をしているのですか?
靴とブレードはネジで留めてある

まず皆さんが驚かれるのは「靴と刃が別」ということでしょう。靴は靴のメーカーから、ブレード(刃)はブレードのメーカーから、それぞれ別に購入して、ネジでくっつけるんです。メーカーごとに特徴があるので、自分に合う靴、ブレードを探すのは一苦労で、何年もかかる選手もいます。

ブレードは包丁みたいな刃ではなく、3ミリくらいの幅があって、真ん中は溝になっているので、外側(アウト)と内側(イン)の2つの刃がある状態になっています。このアウトとインを使い分けて演技をします。

Q2 衣装はどこで買うのですか?
グラデーションが美しい衣装

衣装は専門のデザイナーにオーダーメイドします。海外だと30~60万円くらい、国内なら10万円くらいからありますが、色々と工夫すると逆にコストがかかることもあります。海外では、様々な色の布があるので既製の布地を使えますが、国内には生地の種類が少なく、オーダーで染めてもらうと高くなってしまうんです。

私の場合は、デザインにも興味があるので、振付師と相談して自分でラフ画を書きます。やはり素敵な衣装は、写真に撮ったときも魅力的ですし、ここはこだわりたい所ですね。夕暮れの綺麗な写真を見て、濃い紺からオレンジ色へのグラデーションがとても綺麗だったので、そこからアイデアをもらって衣装を染めたこともあります。写真と同じような美しいグラデーションを出すのは難しかったです。

あと衣装のきつさも大切。私の場合は、動きにくいのは苦手なので、柔らかめの生地にして、スワロフスキーなどの装飾品もあまりつけません。スカートは、跳んだときに振り回されないよう短めに。選手によって、お尻を隠したくて長くする人もいます。

Q3 スケートを始めたきっかけは?

私は父の仕事で子供の頃、アラスカに住んでいました。アラスカでは学校の授業でフィギュアスケートをやるほど身近なスポーツでした。日本に帰国してからも母親が「まだ小さいから、英語はすぐに忘れちゃうかもしれない。身体で覚えることなら一生残るだろう」と考えて、フィギュアスケートを始めたんです。アラスカではどこに行っても池が凍っていましたから、妹も一緒に自由に滑っていました。帰国してからは、本当にお金がかかる習い事になってしまい、母は「失敗した」っていつも笑っています。

Q4 フィギュアスケートで最初に習うことは何でしょう?

まずは前向きに歩くことから始めて、歩けるようになったら片足で滑ってみます。そのあと、後ろ向き滑り、後ろ向きすべりの片足、と練習していきます。その次の段階としては、簡単なターンや、両足でのスピンです。スピンはジャンプの空中での軸にもなりますし大切な技です。ジャンプは半回転ジャンプのスリージャンプ、というのから始めます。これは、またいでピョンっと跳ぶ程度。このスリージャンプで、氷から身体が離れて空中に跳ねることを覚えます。

Q5 もしルールを気にしないなら、やりたい技は?

バックスクラッチというスピンをずーっと長くやりたいです。真っ直ぐ立って、脚を絡めて高速回転するスピンの技です。今のルールでは、バックスクラッチをいくら高速で回っても、レベル1にしかならず得点源になりません。試合では、もっと点の獲れる違うスピンをやらざるを得ないので。だから、高速でいつまででも回れるという魅力がある、バックスクラッチを披露したいですね。

Q6 ジャンプが失敗すると1回転になってしまうのはなぜ?
タイミングよく身体を締めると、細い軸に入り高速回転できる

いわゆる「パンク」ですよね。これは、ジャンプを踏み切るときに、何らかのアクシデントがあって、身体を細い軸に締められない状態です。トウを突く角度を失敗したり、上半身がゆがんだり、タイミングがずれて空中に上がってしまうと、もう軸を作ることは出来ません。空中に上がるのはほんの一瞬のことなので、ちょっとでもタイミングがズレると、身体を締めることができず「パンク」になってしまいます。

Q7 表現の幅を広げるには、どんなことをしていますか?

表現を磨くには、カメラ、ビデオは必需品です。普段の練習からビデオで撮影して、それをチェックします。振付師のところに行くときも必ず撮影します。細かい動きのチェックなどは、やはり撮影していくのが一番です。

Q8 演技の感性を育てるには?

私の場合は、父がパイロットだったので星に凄く詳しくて、その影響で空を見るのが好きでした。子供の頃、「あれが何座、あれが何星」という話をしてくれたので。それで、「ジュピター」とか「月光」とかで、天体にまつわる作品を多く演じてきました。美しい空を見て純粋に「ああ美しいな」って思ったりすることで、感性を育ててこれたかな、と思います。日本にいると空を見上げることも少ないですが、そういった自然から受ける感動は大切だと思います。

もちろん、舞台やミュージカルも好きなので、良く見に行きます。ニューヨークでも、日本にいるときでも、またビデオでも、色々な作品を見るようにしています。

Q9 テレビ観戦と会場観戦は違いますか?
テレビ観戦では伝わらない魅力がある

ぜひ生を見に来ていただきたいです。スピード感などは、テレビとは全く違います。氷の削れる音、ジャンプのドーンという着地の音、いろいろなパワーを感じることが出来ると思います。テレビでは良さが伝わらない選手もいるので、ぜひ生を見て欲しいですね。

また試合というのは当日の出来、不出来もありますから、その臨場感がある中で、滑りの違いを見てくださることも嬉しいです。

Q10 フィギュアスケートはスポーツだと思いますか、芸術だと思いますか?

もちろん両方大切なのですが、普段の練習時間のほとんどはジャンプです。なので選手にとってはやはりスポーツという面が多いでしょうね。ジャンプが決まるか決まらないかで、かなり得点に影響が出ます。

演技面といっても、深いステップであるとか、身体の使い方というのが細かくルールで決められていて、独創的に自由に踊るのではなく、非常に細かく規定された動きを、決められたスピードで、決められた方向に動かしているんです。芸術というのは、それをすべて出来るようになった先。より難しい部分ですね。

でも、昔は個性的な選手が多くいました。フィリップ・キャンデロロ(フランス)の「三銃士」などは、今のルールでは点が出ませんが、とても素晴らしいプログラムでした。

Q11 海外で習うときは英語はどうするのですか?

私の場合は幼少のころ海外に住んでいたので、ある程度は分かりました。他の選手の場合は、みなさんブロークンで話していますね。また海外のリンクでも、日系人でスケートを子供に習わせている方がいたりするので、通訳してくれることもあります。スケートの言葉は英語由来のまま使っているものが多いので、みなさん会話は何とかなっているようです

Q12 どういう瞬間に観客と一体感を感じますか?
ピンクパンサーを演じた村主選手

バレエと違って、スケートの試合は照明がなく地明かりなので、観客の顔がすべて見えます。選手によりますが、私はしっかり顔が見えてしまうタイプなので、いい意味でも悪い意味でも反応が分かりますね。

ストーリー性がある演目や、キャラクター設定がある曲は、演技しやすいし、観客の反応も分かりやすいです。例えば「ピンクパンサー」は、私自身は演技するのが本当に大変でした。クラシックでしっとり踊ることが多かったので、ユーモアで、ユニークで、テンションを上げないと踊れない曲は初めてだったんです。でも演技後に皆さんから「すごく良かった」と言って頂けることが多かったので、キャラクターが大事なんだなと痛感しました。

でも、ストレートラインステップの前でリンクの端まで来て観客を見たら、大あくびしていた、ということもありましたね(笑)。あれは心が痛い! 自分が観客になったらしっかり見ようと思いました。

Q13 観客や応援にお国柄はありますか?

国によって全然違います。アメリカ、カナダは興奮してすごく盛り上がり、反応が分かりやすいです。

日本の観客は真面目です。試合が始まると、シーンとしておしゃべりもせず見ます。演技中に「ワーッ」と鳴り物をたたいて盛り上がったりもしませんから、その緊張感ある空気のなかで演技する感じです。終わると拍手を沢山いただけるけれど、試合中はすごく静か、というイメージです。

ヨーロッパでは、盛り上がるというより、芸術を見に来ているという感覚。試合なのに時間も適当で、地方試合だと、観客がまだ埋まっていないから試合開始時間が遅れたりすることも当たり前でした。いい演技をした時のお客さんの反応は、とても温かく感じます。

Q14 フィギュアスケートをしていて、一番幸せを感じる瞬間は?
スタンディングオベーションは選手にとって大きな喜びだ

観客の方々が、最後にスタンディングオベーションしてくださった時、自分が練習してきたものをミスなく出せた時、ですね。生きていて良かった、頑張った甲斐があったと思います。スタオベのために頑張っているといっても過言ではないです。ですので、ぜひ生の観戦に来ていただけたらと思います。

村主 章枝

村主 章枝/Fumie SUGURI 表現力豊かで「氷上のアクトレス」と称される日本を代表する元フイギュアスケート選手。スピード感溢れる滑りと、軽やかなジャンプで世界中のファンを魅了。全日本選手権では3連覇を含む優勝5回、2003年グランプリファイナル日本人初優勝、2006年世界選手権2位、四大陸選手権優勝3回、ソルトレイクシティ五輪5位、トリノ五輪4位という快挙を達成するも、2014年11月、ファンに惜しまれつつ引退。現在は日本とカナダを拠点に、振付師・コーチとして活動を開始。

フィギュアスケートを100倍楽しく見る方法一覧へ