写真家インタビュー&ベストショット - Photographer Interviews & Best Shots -

写真家 中西 祐介氏
インタビュー&ベストショット

「自分がどうあるべきか」から始まる

文・野口美恵(スポーツライター)

学生時代からボクシングジムへ撮影に通い、試合に至るまでの選手のドキュメンタリーを撮影してきた中西祐介氏。勝敗だけでなく選手のストーリーに着目する深い洞察力で、フィギュアスケーターの奥深い人生を映し出している。

ベストショット
ベストショット写真
<機材情報>
EOS-1D X Mark II, EF400mm f/2.8L IS II USM, F2.8, 1/2500sec, ISO6400
©Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT

中西 祐介氏 目の前の壁を越えようとする強い気持ちは選手を一つ上の場所へと連れていく。力の宿る選手の目がそれを証明しているようだ。

出会いはスポーツドキュメンタリー
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中西カメラマンは、あらゆるスポーツシーンで撮影されている姿をお見かけします。一つの競技に特化せず、多才な方だなあという印象です。

僕の場合は、スポーツカメラマンになろうとしたのではなく、大学生の時は報道カメラマンを志望していたんです。「何か自身の表現手段が欲しい」と思って高校時代に写真部に入り、大学は写真学科。そこでドキュメンタリーのゼミに入ったんです。

なぜドキュメンタリーを選んだのでしょう?

ストーリーの魅力ですね。卒業制作はボクシングを撮ったのですが、試合の写真ではなくて、1人のボクサーの裏にある試合に至るまでのストーリーを描こうとしました。試合を撮影するだけでは、単なる勝敗の記録になってしまう。僕が追ったのは、デビュー前のあるボクサーが、プロテストを受けて、ライセンスを獲り、デビュー戦に至るまでの1年です。後楽園ホールでのデビュー戦が11月で、卒業制作の提出ギリギリでした。

ドラマティックですね。しかし、なぜまたボクシングを?

ボクシングは、生臭くて、きれい事抜きで殴り合う、人間の本性が現れる世界です。しかも、そこに至るには、裏で苦しみ、また周りで支える人がいる。そういうストーリーを描きたくてボクシングを選びました。

では、彼のデビューまでの人生を凝縮した作品になったのですね。

いや、それが全然伝えられませんでした。僕自身が彼に追い付いてない、と感じたんです。彼は僕より1歳若かったのですが、実際にプロとしてデビューしていく彼の大きさと、まだ大学生でカメラマンとしてはアマチュアに近い僕。僕はあまりに経験がなく、撮り手が未熟だと写真も未熟になるな、被写体と対等になるよう自分が成長していかないと、と痛感する卒業制作でした。

スタジオと試合での表情の差 荒川のオーラ、宇野の目に刺激
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そして卒業後は報道カメラマンに?

ニュースの現場に行きたくて出版社の写真部に入社しました。ところが出版社は、報道現場よりも、スタジオでのモデル撮影や商品の撮影がほとんどです。毎日、照明を組み立てて特撮の技術を身につける日々でした。当時は嫌々やっていたのですが、今思えば、報道もスタジオ撮影も、両方の技術を身につけることができました。

報道とスタジオでの撮影は全然違いますものね。

スポーツの現場だと、そこに現場があって、こちら側から切り取る、というイメージです。でもスタジオ撮影は被写体と1対1。自分のパーソナルを試されると感じています。一流の選手なら「このカメラマンはどんな人かな」と見ているので、自分は壁を作らず、相手に心を開いてもらって、引き出すことを考えます。

スケーターも、試合とスタジオでは、やはり表情が違いますか?

違いますね。昨年末に宇野昌磨君をインタビューで撮影したのですが、試合と、一個人としての顔は全然違いました。彼を最初に撮影したのは2013年の全日本ジュニア選手権で、当時は子どもから青年になる時期でした。そして今季はすごい活躍で、氷に立った瞬間に「覚悟」みたいな顔をしますよね。だから試合だけ撮影していると、すごく年齢の割に大人びた感じに成長したなと思っていました。でも先日のインタビューのときは素直な少年って感じで、試合の時の強さがない。あまり喋らない、落ち着いた子です。その差が現れていました。

宇野選手は、試合だと変わりますよね。

リンクに立った瞬間に、強さが出ますね。ですので、今回の2016年世界選手権では彼の「目」に映し出される内面を撮りたいと思いました。彼の滑りは、音楽に乗って氷の上でストーリーを作り、氷に溶け込む感じがします。そこに自分も飛び込んで溶け込むような気持ちになると、良い写真が撮れるだろうと。ただシャッターを押すのではなく、彼の内面を考えながらシャッターを押しました。

写真が楽しみですね。ところでスケートの撮影はいつからでしょう?

荒川静香さんの撮影が最初でした。トリノ五輪で金メダルを獲得して、帰国してすぐに文部科学大臣を表敬訪問したのですが、その時に同行しました。なんだか近づいたらいけないくらい内側からのオーラが凄かったのを覚えています。五輪の空気をそのまま持ってきている感じがしました。

試合の撮影はいつが最初でしょう?

長野での2009年NHK杯です。安藤美姫さんが優勝した時ですね。フィギュアスケートは前後左右に選手が動くので、追うので精一杯。でも安藤さんを横から捉えた1枚をアフロの社長に褒めていただけて、それが初めて褒められた写真だったのを覚えています。

ソチ五輪も撮影されていましたね。

ソチ五輪シーズンは、フィギュアスケートってすごいスポーツだなと改めて感じました。2013年12月の福岡でのGPファイナルの時、関係者通路からリンクサイドに出た瞬間に、空気がいつものシーズンと違ったんです。選手だけでなく、会場全体が張り詰めている。選手、メディア、ファン、関係者、すべてが、4年に1回のシーズンという空気になっていて圧倒されました。大きな波をつくるスポーツだと感じるシーズンでした。

「技」ではなく「華麗な瞬間」を
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五輪シーズンの緊張感ってありますよね。ではフィギュアスケートを撮影するときに心がけていることはありますか?

トリプルアクセルや4回転などの「技」を撮るのではなく、「華麗な瞬間」を探しています。着氷した直後とか、ステップ中とかに、顔がキラっと光る瞬間があるんです。1人の人間が滑っているはずなのに、それを超えて、風に乗っているようだったり、自然に流れているようだったり、氷と一体化していたり。その瞬間を見逃さないようにしています。

その光を感じるためには、どうしたらいいのでしょう?

外から写真を撮るのではなく、心の内側から写真を撮りたい、と考えています。とにかく撮影の初心は、「こういう作品を撮りたい」ではなくて「自分がどうあるべきか」から始まるんです。だから自分におごりを持たないことが大事かなって思います。だって結局は、自分が経験したこと以上のモノは撮れないし、自分以上のモノを相手に求めても、自分が未熟だと映せない。できれば被写体と対等になるのが理想です。

すごい心がけですね。でも仕事でそれを追求すると、難しい気もします。

もちろん仕事と、自分が残したい作品は違うアプローチになると思います。仕事は撮影技術が必要で、技術を高める努力をします。そこで経験値が上がることで、自分が撮りたいモノも撮れるようになると思います。学生時代からずっと撮影しているボクシングジムでは、相手との信頼もできて、そういう対等になる瞬間が本当にたまに出てくるようになりました。

2012年にキヤノンギャラリーで開催した個展も、ジムを題材にした『拳の行方』でしたね。次の個展の予定もあるのですか?

次はきっと、そのジムがなくなる時ですね。僕が学生時代に撮影場所を探していたときに、「おお、来ていいぞ」と言ってくれたジムの会長の恩に応えたいんです。以前会長が「君が撮ることで、選手の姿がこの世に残る」と言ってくれたことがあって、それ以来、自分の写真に責任を持てるようになりました。それは撮影の腕とかではなく、撮影して、それを必要とする人に届け、残す、そこまでが僕のカメラマンとしての責任だと感じています。

写真

高校時代から1つのものを撮影するというのは凄いことです。高校時代からカメラはキヤノンですか?

そうです。雑誌で、報道カメラマンが白い大きなレンズを持っている写真をみて「なんだこれは!カッコイイ」って思って(笑)。僕は今フォトエージェンシーの『アフロ』に所属しているカメラマンですが、機材は個人で選べるんです。スポーツを撮影していると、やはりオートフォーカスが速いこともあって、キヤノンを継続して使っています。カメラマンとしては、機材を取り替えてグリップや使い勝手が変わることは好まないのですが、キヤノンは改良機種が出てもグリップが同じなので、違和感なく使っています。今回の世界選手権では最新機種のEOS-1D X Mark IIを使いましたが、ブラックアウト(シャッターを切った時の暗転)の時間が短くなったので、連写時に見やすくなったなと感じました。また、放映権が関わらないスポーツであれば、最近は動画も頼まれますね。EOS-1D X Mark IIは4Kを積んでいますし、キヤノンでの動画撮影も今後は増えると思っています。

ボクシングでの個展に続き、いずれはフィギュアスケートでも新しい作品が撮れそうですね。

頑張ります。やっぱり、一番華やかな時だけじゃなく、苦労している時代からずっと追いたいです。注目している選手もいますし、そうでなくても、僕が撮ることで人の人生が良い方向に変わる、ということがあれば一番いいなと思います。そうすれば僕がカメラマンになった意味がある。だから常に、被写体を囲む人たちのなかで、どういう形で僕は役に立てるんだろう、と思うようにしています。

――ありがとうございました。ぜひフィギュアスケート選手でのドキュメンタリーの制作をお願いします!

■中西 祐介(なかにし・ゆうすけ)
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、講談社写真部勤務を経て、2005年よりアフロスポーツ所属。学生時代よりボクシングを撮り始め、現在はオリンピック、ボクシング世界戦など様々なスポーツを追う。ライフワークとしてボクサーのドキュメンタリーなどの作品制作も行う。

■中西 祐介氏著 「「いい写真」はどうすれば撮れるのか?~プロが機材やテクニック以前に考えること」
技術評論社刊
「いいカメラを使っても、画質はきれいだけどいまいちピンとこない写真しか撮れない」そんな悩みを解決するために、何に注目し、どう考え、どんな準備をして、どう撮るか、という機材やテクニック以前の「考え方」を教えます。

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