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インタビュー

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インタビュー/文・折山 淑美

スウェーデン留学で見えてきた道

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 6月末の日本選手権後に出発した、約1ヵ月間のヨーロッパ遠征。最高記録2m27で、ダイヤモンドリーグロンドン大会6位になった戸邉直人は、「最初は天気も良く、記録も2m24、2m27と良い感じでいけたけど、後半は技術的にまとまらず、天候が悪くなったこともあって低調だった」と振り返る。

 この遠征を「世界選手権へのステップ」と位置づける戸邉。それまで直線的に入っていた助走を、大きく弧を描くスタイルに変えようとしたのも、この遠征だった。

「理想は大きなカーブで体を傾けて走る入り方。踏み切り動作を、両手を同時にあげるダブルアームにしたところから徐々に変えてきて、2016年リオデジャネイロ五輪までには完成型を目指そうと思っています」

 最終目標は2020年東京五輪。そこまでに目指すものを100とするならば、今、目指す完成度は80くらい。100へ押し上げるための技術習得には体力が必要だという持論から、昨年までは体力トレーニングを中心にしてきたが、今年からは来夏のリオデジャネイロ五輪に向け跳躍に特化したヨーロッパスタイルの練習に転換し、技術力を上げている。

自分の立ち位置を確認する大会

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「理想の技術が100%完成すれば2m40は跳べると思います。ただ走り高跳では踏み切りで大きな力がかかるから、それを制御する体力や跳ぶための力、基本的なジャンプ力が必要。日本の中では自慢できる体力がついてきたとは思うけど、世界で戦っているとまだまだ足りていないと感じますね。でも、リオデジャネイロ五輪へ向けては技術を高める時期だとも思っています」

 その先についてはリオデジャネイロ五輪が終わってから1~2段階体力レベルを上げ、東京五輪に挑戦するという4年計画で考えていると話す戸邉。今年は冬のヨーロッパ遠征で新しい技術を試すはずだったが、アキレス腱痛が出てしまい、主に体力トレーニングを行うことになった。そのため日本選手権までは元の助走で挑戦と少し予定がずれた。改良を始めたばかりの夏の遠征ではまとまりきらなかったが、戻った後はかなり良い状態になってきている。それを世界陸上本番で出せれば、日本記録の2m33超えも可能ではないかと笑顔を見せる。

 一方、戸邉にとって今回の世界陸上はシニア初の世界大会。「今回は自分の現状を知ることが目的」と慎重な発言もする。

「ダイヤモンドリーグでもトップ選手が揃う大会はあるけど、世界陸上は真のトップ選手が一堂に会する特別な場所。そこではもちろん決勝に進んで、自分がどのくらいまでいけるのかを試したいし、決勝へ進出しなきゃダメだとも思っています。でも、ものすごくレベルが高いのも事実なので、決勝進出標準記録は2m31か32になるはず。おそらく決勝進出人数の12人は雨でも降らない限り、その高さを跳んでくると思うし、それは今の僕の自己ベストレベルなので、ミスは許されません。100%、力を出していかなければいけないと思うんです」

さらなる進化に必要なものとは

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 今季の世界ランキングを見れば、昨年2m43を跳んだムタズ・エサ・バルシム(カタール)の2m41が最高だが、2m32までとなると15人がクリアしている。その中で戸邉が12人に中に入るためには、どこまで自信を持ち、決勝へ進みたいという強い気持を持てるかだろう。走り高跳の研究にも没頭している理論派の彼が、どこまで野性的な本能をむき出しにできるのか。

「確かに練習ではいろいろ考えてやっていますが、試合では下手に考えないで跳んだ方が良いと思う。そういう気持ちに入るスイッチがあって、特に2m29を跳んだ今年5月のダイヤモンドリーグ上海大会ではそうでしたね。その1週間前のゴールデングランプリが2m20だったので、『これはもうどうしようもない』と開き直って跳びました」

 どの試合でもほとんど感情を表に出さない戸邉だが、2m29を跳んだ時は思わずガッツポーズが飛び出したという。だがそれも胸の前で拳を握っただけだったそうで、両手を突き上げるような喜びの表現ではなかった。「もし日本記録を跳んだとしても、自分で納得がいかないジャンプだったらそんなに喜ばないでしょうね」と苦笑する。

「最近気にしているのは、特に国内の試合でテンションが上がりきらないこと。ヨーロッパのダイヤモンドリーグなんかだと会場もすごく盛りあがるので、自分の中のテンションも上がり、試合モードになるんですけどね。そこを何とかしなければいけないのかな、と考えるようになりました」

 着々と体力をアップさせ、技術力も高めている戸邉。彼がもう一皮むけて世界と対等に戦えるようになるためには、もう一歩の記録更新とともに、野性的な本能をむき出しにできる瞬間を持てるようになることなのかもしれない。勝負の場で喜びを爆発させられるような跳躍ができたり、悔しくて眠れないような気持ちになったり……。

 初めての世界陸上はそんな経験を彼にさせてくれるかもしれない、絶好の舞台とも言えるだろう。この大会を来夏のリオデジャネイロ五輪、そして5年後の東京五輪のための第一歩にしたいという戸邉には、結果だけでなく、魂が震えるような経験をしてきてもらいたい。