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インタビュー

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インタビュー/文・高樹 ミナ

今井選手が欠場も積極的な藤原、安定感の前田両選手に期待

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——北京のマラソンコースはどんなコースですか?

前回のモスクワ大会は周回コースでしたが、今回はワンウェイで後半にカーブがたくさんあります。ジグザグした感じなので、選手にとっては仕掛けどころの多いコースと言えるでしょう。引き離しにかかったときはカーブが利用できる、先頭のほうを走っていればいるほど有利なパターンです。先頭集団にいる選手がどこで仕掛けてくるか、目の離せない展開になると思います。

——男子マラソンが開幕初日に行われるという珍しいスケジュールですね。

従来は大トリの最終日に行われますからね。陸上競技は基本的に個人戦ですが、チームジャパンとして考えた時は種目を問わず大会前半で結果が出ると、後に続く選手も「よし、自分も」という気持ちになりますから、今回男子マラソンには日本人選手に活気をもたらす役目もあります。そんな中、本来一番の注目株だった今井正人選手が体調不良のため欠場を決めました。箱根駅伝での活躍から元祖「山の神」と呼ばれる実力派が、ようやく世界のスタートラインに立つはずだったのにとても残念です。ただ、大変勇気がいる決断だったとも思います。私も2000年シドニーオリンピック前年の世界陸上は欠場を決め苦しい思いをしましたが、そこで無理をしていたらオリンピックでの金メダルは無かったと思います。

——藤原正和選手、前田和浩選手についてはいかがでしょう?

藤原選手にはこれまたドラマがあるんですよ。学生時代、2003年の世界陸上パリ大会で日本代表に選ばれながら故障で欠場。10年ぶりに2013年モスクワ大会で再び日本代表入りを果たし、今回の北京で2大会連続の出場となります。男子マラソンは2008年北京オリンピックでサミュエル・ワンジル選手(ケニア)がオリンピック新記録(2時間6分32で金メダル獲得)を出していますから、いくら気温が高くても、もしかしたら海外の選手が前半から飛ばすかもしれません。そうなると縦長の展開になり、日本人選手の位置取りが難しくなる可能性があります。そういう時、藤原選手は先頭を追って果敢に攻めていくタイプなので、他の日本人選手が「自分たちも離れてはいけない」という積極的な意識を持てるのではないかと思いますね。

——来夏のリオデジャネイロオリンピックの代表権もかかっていますからね。

そうなんです。今大会8位以内で日本人トップならば、その時点でオリンピック出場が決まるという“ご褒美”がありますから、日本人選手間にはその辺の争いもあります。前田選手も本当に息の長い選手で、彼の武器である安定感は世界陸上のような大きな大会で強みになると思います。展開としては、圧倒的な強さを誇るアフリカ勢がレースを引っ張ることは間違いありませんから、日本人選手はそれにどこまで食い下がっていけるかで入賞ラインを狙えると思います。ケニアには2時間2分57秒の世界記録を持つデニス・キメット選手や、ウガンダには2012年ロンドンオリンピックと2013年世界陸上2冠達成のスティーブン・キプロティチ選手らがいます。日本人選手には彼らの動向をしっかりと追って、世界の戦いぶりを体に染み込ませてもらいたいですね。

ニューヒロイン誕生の予感!? 新星・前田選手の突破力に注目

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——女子は前回モスクワ大会の福士加代子選手の銅メダル獲得がとても印象的でした。

世界大会は選手の力を覚醒させる舞台でもあるので、北京でもそういったシーンが見たいです。特に若い選手にはそのきっかけにしてほしい。そういった意味で楽しみなのが、まだ大学を出たばかりの前田彩里選手です。もう本当に楽しみ!久しぶりに強い選手が出てきたなと注目しています。自身の力をスポーンと出して突き抜けられる力を持っていて、今年3月の名古屋ウィメンズマラソンで接触による転倒のアクシデントがあったにもかかわらず、それに動じることなく2時間22分台をサクッと出してしまいました。つまり、肉体的な速さだけでなく精神的な強さを持っている事も証明しました。

——そういう意味で高橋さんとちょっと似ているのでは?

フルマラソンを走った後でも、ちょっと散歩がてらジョギングに行けてしまうタフさなんかは似ていますね(笑)。それはやはりご両親の影響が大きく、お母様はとても速い市民ランナー、お父様は実業団の監督をされていた方で、彼女は幼い頃からジョギングに慣れ親しんでいるので、負担に思わず距離を稼げるところがスタミナに結びついています。一昨年、お父様が亡くなられて、その辛さも乗り越え強くなった前田選手。底力のある彼女の世界陸上も楽しみですけど、その後のリオデジャネイロ、そして2020年東京オリンピックを見据えて夢の広がる選手です。

——伊藤舞選手、重友梨佐選手についてはどうご覧になりますか?

伊藤選手は漂々とした強さを持った選手で、どんな大会でもまとめてくる安定感があります。走り込むたびにフォームも良くなっていますね。重友選手はロンドンオリンピックを経験している分、世界の舞台にもう一度たどり着きたいという思いが強いと思います。選考のときに少し辛い思いをしましたが、それに負けず自分らしい走りをしてほしいと願っています。

——女子マラソンはどんな展開が予想されるでしょう?

女子は男子ほど縦長にはならず、前半はケニア、エチオピアの選手が後ろで様子を見ながら、後半30km前後から急にスピードアップしていくいつもの展開になると思います。そうすると前半のペースはそれほど上がらず、暑い中でゆっくり走ったぶん時間がかかって、30kmより手前で体力を消耗する選手が出てきます。アフリカ勢にもその可能性はありますから、日本人選手に勝機がないことはありません。日本人選手は25kmを過ぎたら自分の走りに集中するだけでなく、周りの動きにアンテナを張り、ちょっとした変化にも対応できるようにしておかなければいけません。そして、ぜひ昨年の福士選手に続くメダルを狙ってほしい。レースをご覧の皆さんも、後半の駆け引きに注目していただくとマラソン観戦を楽しめると思います。

10000m絶対王者のファラー。最後の1周は必見!

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——トラックで行われる長距離種目の見どころも教えてください。

何と言っても注目は男子10000mのモハメド・ファラー選手(英国)でしょう。ロンドンオリンピック、世界陸上モスクワ大会と圧倒的な強さで2冠達成ですからね。彼のすごさはやはり最後の1周。それまでの9600mはいったい何だったんだという驚異的なスピードを持っています。そのファラーと同じオレゴンのチームで練習を積んでいる大迫傑選手も日頃からトップ選手の強さを知っているので、是非成長した姿を見たいですね。女子ではレース運びに長けた10000mの西原加純選手が初の世界陸上で周囲のペースに飲まれることなく、堂々としたレース、もう一ランク上に殻を破る走りに期待しています。