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インタビュー

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THE BEST SHOT

機材情報
EOS-1D X + EF600mm F4L IS II USM, F4.0, 1/5000sec., ISO500

男子20km競歩は、世界では通常「レースウォーキング」と呼ばれる。その20㎞レースウォークの1時間16分36秒の世界記録保持者は、日本の誇る鈴木雄介だ。
世界中の競歩スペシャリストから世界一の「華麗なスタイル」と称賛される。
過酷な気象条件下で行われるレース。ミストのカーテンは一瞬ながら「涼」を与える。
「ペースアップを!」と心の中で念じた途端、ファインダーの中の彼が消えてしまった。
金メダルに最も近い男は、次回大会でもその地位は変わらないだろう…。

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インタビュー/文・高樹 ミナ

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——フォトグラファーになろうと思ったきっかけは何だったのですか?

高校の卒業アルバムを作ったことです。定型のアルバム以外にもう1冊、自分で考えたオリジナル版を作ったのですが、その作業がものすごく面白かったんです。それで仕事にするなら雑誌作りをしたいなと漠然と思うようになりました。それまではずっとスポーツをやっていたので、体育の先生になろうと思っていました。


——競技は何を?

陸上競技の長距離です。僕は島根県の出身で3人兄弟の末っ子ですが、2人の兄も陸上競技をやっていて。3人全員が県大会で優勝したものですから、「同種目兄弟制覇!」なんて言われていました。高校卒業後は東京の写真専門学校に通い、在学中から週末はスポーツ写真、平日はファッションやコンサートの写真を撮っていましたね。


——伊藤さんというとサッカーのイメージもありますが、最初に撮ったスポーツ写真は?

高校の同級生が早稲田大学の陸上部に入ったので、カメラの練習のために早慶戦の写真を撮っていました。それが初めてのスポーツ写真です。撮った写真は日本陸上競技連盟の方の目にふれ、すぐに陸上競技の専門誌があるベースボールマガジン社に持っていくようにと言われ、それから陸上の写真を仕事として撮影するようになりました。卒業後の進路はコマーシャル、ファッション写真と悩みましたが、ベースボールマガジン社の編集部に入ることになりました。「写真部じゃないの?」と意外に思われるかもしれませんが、僕は撮った写真を使って何かの形にするのが好きなんですね。まさに高校の卒業アルバムが原点。今もそれは変わっていません。

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——被写体として思い出深い選手は誰ですか?

早稲田大学時代から見ていた、マラソンの瀬古利彦さん。当時の瀬古さんは「神童」と呼ばれていて、熱血指導で知られる故・中村清監督がついていましたから、大手メディアでもおいそれとは取材させてもらえませんでした。僕が取材のお願いに行ったときも監督宅の玄関で3時間ぐらいお説教です。本気の度合いを試されたのでしょう。最終的にお許しが出てからも取材の度に中村監督から説教されました。瀬古さんの練習が終わって初めて中村監督から、「よし、撮っていいぞ」とOKサインが出ると撮る、そんなことをしていました。だから瀬古さんには、一緒に説教をされた同志のような強い思い入れがあります。スポーツ写真にはそういった選手への思いに突き動かされる側面があると思います。


——スポーツ写真の魅力とは何でしょう?

撮影条件に制約がある中で「これだ」という瞬間をいかに見つけ出し、どう表現するかにあると思います。5cmや10cmのポジションの違いで画が変わってくるし、同じ競技でも種目や天候による光の加減で表現が違ってくる。二度と同じショットは撮れないんです。でも、僕らカメラマンはイメージした瞬間を追い求めて同じことを繰り返している。だから、どこからでも狙える撮影技術が必要で、それを追求するのがまた面白いところなんじゃないでしょうか。またカメラ機材の進化によって新しい表現方法が見えてくることもありますしね。

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——具体的には?

キヤノンのAF技術は最たるものです。まだAFがない時代、マニュアルで撮っていた頃は100人のカメラマンが陸上100mのゴールを狙ったとして、ゴールテープを切っているシーンを撮れるのはそのうちの何十人か。さらにゴール後のガッツポーズまで撮れるカメラマンは1人か2人でした。それだけマニュアルでピントを合わせるのは難しかった。選手がどの辺で手を挙げて、どんなポーズをするかをイメージしてピントを合わせるのは職人芸みたいなところがありました。でもAF技術が発達した今は、ゴールからガッツポーズまでカメラが勝手にピントを合わせてくれます。キヤノンは色づくりもいいし、AF技術は革新的です。


——世界陸上は第1回大会から取材されているそうですが、今大会ではどんな画を狙いますか?

陸上競技の風景、スター選手をどう撮るかを考えています。彼らスター選手にはもともと華があって、どんな姿も絵になってしまうので、それでいい写真が撮れた気になってしまうのが怖いところ。選手をいえばウサイン・ボルトもいいですけど、棒高跳の世界記録更新が期待されるルノー・ラビレニ(フランス)なんかも撮るのが楽しみです。陸上競技は他の選手に勝つことだけでなく、自己と闘い記録と闘う。ただそこが陸上競技の魅力だし選手たちを美しいと感じるところでもあるので、狙った瞬間を切り取って、そのような姿が少しでも表現できる写真を撮影できたらと考えています。