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インタビュー

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インタビュー/文・折山 淑美

ヨーロッパ遠征での手応え

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 日本選手権終了後に出かけたヨーロッパ遠征。高瀬慧が3試合で100m3本と200m1 本を走った結果は、10秒53と10秒27が2回で200mは20秒67。3試合目のスイスで藤光謙司が別の組で出した20秒13を「すごい速かったですね。本人もスタート前から今日はいけると思っていたようです」と驚きながらも、自分の走りに関して「ヨーロッパで結果を出すのは難しいが、今回の100mでは3本すべてにおいて全部違うレースができたのは収穫」と表情をほころばせる。

「100mは日本選手権前からずっとスタートで体が浮き上がっていたけど、ヨーロッパでもそうでした。でも2試合目のマドリッドでは中間走が伸びて後半もまとめられて、3試合目のスイスではスタートでうまく出られて、中間までトップだったので・・・・・・。僕の場合、1週間の間でも体や筋肉の状態が変わって走りも激変するけど、それをだんだん修正することができたので、自分の中での修正能力が付いたと自信になりました」

 例年5~6月には調子を上げるが、7月には下げてしまうことが多かった。そう考えれば今ここで調子を下げているのは、8月末の世界選手権へ向けては良いことではないかという。「本来は3~4月には記録を出さない方が良くて、5~8月と徐々に上げていくのがベストだと思います。でも日本のシーズンは少し違うし、今年は標準記録を突破しなければいけないというのもあったので、3~5月で一度ピークが来てしまい6月になってからは疲労が出てしまったかなという感じです。でも5月のゴールデングランプリと東日本実業団など記録を狙った試合では結果を出せたので・・・・・・。自分の中ではピーキングをコントロールできたと思うし、世界選手権にもちゃんと合ってくるのではないかと思います」と。

レース中の痙攣も成長の証

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 もともと400mと200mが専門だった高瀬。社会人になってから200mで記録を伸ばし、1年目の2011年には20秒53で日本ランキング2位に。そして2012年には日本選手権で優勝して日本ランキング1位になりながらも、ロンドン五輪では4×100mリレーのメンバーにはなれず、200mと4×400mに出場。それが悔しくて2013年からは100mにも力を入れ始め、2014年には10秒13まで記録を伸ばした。

「最終的にはメンタルが僕には一番関わってくると思うけど、僕はけっこう緊張しいなので常に緊張しているんです。心と体のピーキングが全然合わないというのがずっと課題で不安しかなかったけど、それが去年のアジア大会の100mで3位になった時はピタリと合って。それで今年は余裕を持てていますね。日本選手権は故障で練習ができなかったので余裕はなかったけど、それ以前の100mで10秒09を出したゴールデングランプリや200mで20秒14を出した東日本実業団では、練習もできて記録が出るという自信が確実にあった。だから緊張はしていても余裕はありました」

 だがそんなシーズンでも、小さな波はあった。開幕戦だった3月のテキサスリレーでは追い風参考記録ながらも20秒09を出したが、次の織田記念では200m決勝は太股が痙攣して途中棄権。翌日の100mも予選は走ったが決勝では棄権した。さらに日本選手権に不安を抱えて臨むことになった原因は、東日本実業団の200mで日本歴代2位の20秒14を出した時、右ふくらはぎの肉離れが発生していたからだ。「今はギリギリのところでやっているけど、僕の中では壁を越えつつある時だと思うんです。時には思いがけないほどのスピードが出てしまうので、その感覚とのズレをいかにコントロールしていくかが課題ですね。でも、その意味で言えば織田記念の痙攣は良い傾向だとも思えるんです。良い感じでスピードが出たから筋肉が驚いただけというか。それはもう慣れていくしかないから、練習の中でもそういうスピードや体の使い方を経験していくしかないと思います」

 東日本実業団の右ふくらはぎの肉離れは予想外のことだったが、レーンの内側を突いていこうとする走りで地面を蹴ってしまったとも考えられる。
「もともと僕は右脚の感覚がすごく悪くて、ハムストリング(太ももの裏の筋肉)と尻をうまく使えていなかったんです。だからそのケガを良い機会だと思って走りを修正し始めたけど、ヨーロッパで『アッ、乗れた。これだ!』というのを掴めたので。その感覚を忘れたくなくて帰国してから直ぐに練習を始めたけど、そうしたら右ハムストリングが痙攣して・・・・・・。今まで右が痙攣したことはなかったので『確実に使えてるな』みたいな感じで、良くなっていると思うんです」

200mで勝負するためにも100mの自己新は必要

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 ヨーロッパ遠征では代理人から他の試合にも出られると言われたが、予定通り3試合をこなしただけで7月16日に帰国した。昨年のアジア大会で、1ヵ月あれば建て直せるということを確認したからだ。帰国後は少し休んでから10日間追い込む練習をする予定。そこが勝負だという。

「走りの感覚はすごく良いけど、走りが硬くなってしまう癖があるので、それを改善中です。苦手なバウンディング(大きなスライドで弾むように前へ進む練習)をもっと効率よくできるようにとか。走りの中で中間疾走にバウンディングを入れてまた走る練習も取り入れているけど、それは走りに大きさを出したいからです。ゴールデングランプリのデータで、足が1秒間に5・1回転していることがわかって。そこまで回っていると思わなかったけど、それ以上ピッチを伸ばすのは無理なので、ストライドを伸ばそうと考えているんです」

 高瀬が世界選手権で狙うのは、200mの決勝進出だ。そのためにも最初にある100mは8割程度の気持ちで臨み、そこで自己ベストを出しておきたい。「何の根拠もないけど、100mは自己ベストが出ると思うんです。ヨーロッパの試合では『このくらいでこれか』という感じだったから、ちゃんと合わせれば記録が付いてくるんじゃないかなって」と笑う。

「200mの準決勝では藤光さんとの争いもあるでしょうね。でも、そういう相手がいるといないのとでは、心の感じ方や気持ちの面で全然違うし、切磋琢磨していけるというのは幸せなことですね。それにどこまで伸びるか未知数のハキームもいることだし。とにかく200mの準決勝で自己記録というのは絶対にクリアしておきたいところですが、来年のリオデジャネイロ五輪へ向けては、100mと200m、それに4K(4×100mリレー)をしっかり走りきる体とメンタルを作り上げることです。ケガをしないということはものすごく大切だと思うので、集中するところは集中して抜くところは抜いて、身心をコントロールしていきたいですね。世界と戦うために、しっかり戦略を持ちたいなと思います」

 不本意な結果になった日本選手権では、集中する期間が長過ぎたのも失敗だという。だから今度は集中する期間を極力短くしたいと。遠征では直ぐに体重が落ちるほどに体や心の敏感さを持つ高瀬。そんな敏感さをうまく利用できるようにするのも、五輪で結果を出すために必要なことは何か。そのヒントを世界選手権で掴もうとしている。