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インタビュー

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インタビュー/文・折山 淑美

調子の波を作らず常に好調を維持する

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7月のホクレン・ディスタンスチャレンジでは、12日の北見大会5000mと16日の網走大会1万mで連続して日本記録を樹立した鈴木雄介。だが本人はその快挙に「両種目とも力を出し切らなければ出ない記録ではないし、出て当然の記録だと思っていたので。集中するというより、ノホホンとした気持ちでやっただけです」と高揚感さえ浮かべない。

「ピークを合わせてというよりは、普通に出た大会ですね。本来なら5月の中国と6月のスペインであったワールドチャレンジの20㎞に出ておきたかったけど、3月に世界記録を出した後のメディア対応で疲れが出て回避したので、その代わりにホクレンに出たという感じです。一度試合で刺激を入れておかないと、去年のアジア大会でそうだったように、8月の世界陸上では力を出し切れなくなるだろうなと思ったんです」

 力を出し切れない状態でも勝負出来る自信はある。だがここで刺激を入れておいた方が、勝利の可能性は高くなるという判断だ。そんな鈴木が今意識しているのは、調子の波を作らないこと。

「僕の好不調は生活リズムや食事を疎かにした影響が多かったので、それを無くせば今のような状態を作っていけるというのがあったんです。それは元々やらなければいけなかったことだけど、以前は厳しく管理ができなかったり集中しきれない面があった。でも2013年の世界陸上で失敗して以降は厳しくできています。やっぱりこの競技はケガをしないのもそうだけど、積み重ねが一番大事だから、理想は一年を通して好調な状態でいることだと思うんです。そうすれば計画的に負荷の高い練習も出来るから、いちいち休む必要はないと思っています」

 試合が終わったからといって長い休みを取れば、練習を再開した時に筋肉がスムーズに動かなくなる。そんな状態で無理をすれば変な疲労が出てケガの原因にもなりかねない。競歩の場合は歩型も重要な要素になるため、常に良い動きで歩けるようにしておかなければならない。そんな意識だったからこそ、世界記録樹立後のメディア対応で調子を崩しながらも、5月末から徐々に動き始め6月末には納得できる状態にまで戻せたのだ。

「食事に関しても意識は高くなりましたね。基本的に炭水化物はそれほどいらないと思っていて、肉や魚のタンパク質と野菜をメインにし、長距離選手がやるカーボローディング(運動エネルギーとなる炭水化物を通常より多く体に溜め込むための運動量の調節及び栄養摂取法のこと)も絶対にしませんね。いきなり偏った食事をすれば、その時は良くても体にダメージを与えるので、常に好調を維持するには向いてないと思う。ただ甘いものは我慢していて、特にチョコレートは好きだけど僕の体には一番悪く影響するので、コンビニで手が伸びそうになった時は自制しています(笑)」

「3大会連続で金メダルを取る」と公言した理由

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 日常生活でブレーキをかけながらも、精神的には安定している。今年の世界選手権から来年のリオデジャネイロ五輪と再来年の世界選手権まで3大会連続で金メダルを取りたいと公言するが、それも「獲れる位置にいるし自信もあるので目標にしているだけ。それを絶対にしなければいけないわけではないので、あまりプレッシャーには感じない」と言う。レースでも相手の方が強ければ仕方がない。最低でも金メダル1個は取りたいが、最悪ならメダル1個でも納得するとニュートラルな意識でいるのだ。

「調子が悪ければプレッシャーを感じるけど、今の状態でいけばそれはないと思いますね。ランキング1位で臨んで失敗した2013年の世界選手権が教訓になっています。それに昨年のアジア大会とW杯では勝てなかったけど、世界のトップ選手と戦えることがわかったのは大きい。2013年の時は今と大差ない練習ができていたけど、自信が今ひとつなくて焦っていた。今はあの時以上のレベルの練習をしても精神的には余裕がある。100%の力を出す練習をしても『やり切った』と思うのではなく、精神的には80%くらいの感じでやれているのが、今うまくいっている理由かなと思います」

 集中しすぎることなく、精神的には腹八分目で日々の練習をこなせている。それが大会を前にしても気持を安定させているのだ。

理想的な勝ち方で競歩に注目が集まるレースを

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 そんな鈴木が本番でライバルになると考えているのはロシア勢が欠場しそうな中で、アジア大会で優勝した王鎮など3人の中国勢と鈴木の前に世界記録を出したヨハン・ディニ(フランス)、W杯優勝のルスラン・ドミトレンコ(ウクライナ)、ミルゲ・A・ロペス(スペイン)、同僚の高橋英輝などだ。

「15㎞くらいで10人程度に絞られると思うけど、僕の一番の特徴は最初からハイペースで行ってもそれを維持できて、最後もそれほど落ち込むことなくゴールできることだと思うので、理想的な勝ち方は6~8㎞くらいから一気にペースを上げて突き放すパターンでしょうね。メダルのことだけ考えればラスト5㎞の勝負でも確実に獲れるという自信はあるから、どちらにしても6㎞くらいまでは集団の中で自分の調子を見て、余裕があれば飛び出そうと。実際にはどういう結果になるかわからないけど、最悪でも最後まで優勝の期待を持たせるレースはしたいですね」

 そんなレースをしてこそ、競歩にも注目してもらえる。もしメダルに届かなかったとしても、「来年のリオでは金メダルもいけるのでは」と思わせるようなレースをしたいと言う。

「今の日本のスポーツ選手では、フィギュアスケートの羽生結弦君とテニスの錦織圭君がトップだと思うから、その2人を超えられたらなというのはありますね。特にこの2年はチャンスだと思うし、今回金メダルを獲れば来年の五輪は主将に選ばれる可能性もあるので。それでまた金メダルを獲れれば、名実ともに日本のトップアスリートにもなれると思うので…。今はそれを目指しています」

 世界記録保持者としてのプライドと自信。鈴木はそれをすべて前向きに捕らえて頂点を目指している。