2011年9月号

快速・快適なオートフォーカスの仕組み

写真1 EOS-1D Mark IVのAFセンサー配置図

写真1 EOS-1D Mark IVのAFセンサー配置図

今や写真撮影において欠かすことのできない重要な機能、オートフォーカス(AF)。今月の技術レポートは、デジタル一眼レフに採用されている「位相差検出方式」と「コントラスト検出方式」の2つのAF方式の仕組みについて、ご紹介します。

1.位相差検出方式

図1 位相差検出方式の基本原理図

図1 位相差検出方式の基本原理図

撮影レンズを通して入射される被写体像を、AF検出装置内の二次結像レンズを用いて2つの像に分離生成し、その2つの像間隔をラインセンサーで計測してピントのズレ量を検出します。ピントが合っている面が被写体より手前(カメラに近い側)にある場合を「前ピン」といいます。この場合、2つの像間隔は適正値より狭くなります。

逆に、ピントが合っている面が被写体より奥(カメラから遠い側)にある場合を「後ピン」といいます。この場合、2つの像間隔が適正値より広くなります。

すなわち、合焦している状態の2つの像間隔を基準に、狭いときは前ピン、広いときは後ピンと判断し、「レンズを動かす方向」を、また、ラインセンサー上のズレ量を基に「レンズの移動量」を演算し、撮影レンズを駆動します(図1)。

そのため、位相差検出方式では高速でピントを合わせることができます。

F2.8光束とF5.6光束の違いによるピント精度

デジタル一眼レフで主に使われている位相差検出方式の基本原理は、前述のとおり、左右のA Fセンサー上に結像した被写体の位相差を検出・演算して、ピントのズレ量を出しています。

ピント調節をする撮影レンズの移動量が同じ場合、F2.8光束を利用した方が、F5.6光束を利用する場合に比べて、センサー上での結像位置の変化量が大きくなります。よって、F2.8光束を利用した方がより精度の高いピントの検出ができることになります(図2・図3)。

図2 F2.8光束とF5.6光束の比較原理図

図2 F2.8光束とF5.6光束の比較原理図

図3 クロスタイプAFの原理

図3 クロスタイプAFの原理

多点AFとクロスタイプAF(図4)(EOS -1D Mark IVの場合)
①開放F値:F2.8までのレンズ使用時

AFフレーム任意選択時は、45点のAFフレームのうち39点で高精度なクロス測距(縦横線同時検出)が行えます。残りの6点では横線検出になります。

なお、自動選択時はクロス測距点が39点から19点に減少します。残りの26点では横線検出になります。

②開放F値:F4のレンズ使用時

中央AFフレームで高精度なクロス測距が行えます。残り44点のAFフレームでは横線検出になります。

③開放F値:F5.6/F8のレンズ使用時

F5.6レンズではすべてのAFフレームで横線検出によるAF撮影になります。F8レンズでは中央AFフレームで横線検出となり、それ以外ではAF撮影はできません。

図4 EOS-1D Mark IVのAFフレーム

図4 EOS-1D Mark IVのAFフレーム

2.コントラスト検出方式

多くのビデオカメラやTVカメラ、コンパクトデジタルカメラで採用されているAF検出方式です。ピントが合っている場所はコントラストが高くなるので、撮像素子から得た画像のコントラスト情報を解析し、コントラスト値が最も高くなるように撮影レンズの移動位置を制御します。

この方式の場合、撮影レンズを動かさないとコントラストのピークがどこにあるかが分からず、また、どちらに動かせばコントラストが高くなるかも分からないため、撮影レンズを往復移動させる必要があります。従って「位相差検出方式」と比べて、合焦に至るまでに時間を要します(図5)。

しかしデジタルカメラには元々撮影用の撮像素子が搭載されているので、この方式を使えば、新たなAF検出装置は不要です。一眼レフのライブビュー撮影や動画撮影時のAF検出にも、この方式を用いています。

図5 コントラスト検出方式の基本原理

図5 コントラスト検出方式の基本原理

目指すは決定的瞬間に即応し、写真表現の可能性を広げる

AFテクノロジー

快速・快適を追求し、進化を続けてきたキヤノンのAFテクノロジー。開発の狙いから進化の歴史、機能の仕組み、今後の展望まで、イメージコミュニケーション事業本部 カメラ開発センターの吉田智一氏に詳しく語ってもらいました。

※1 クロスタイプセンサー

横線検出センサーと縦線検出センサーを十字に配置することで、被写体パターンに依存しない補足性能を実現。F2.8光束対応で、より精度の高いピント合わせを可能にした。EOS -1D Mark IVは、全45点のうち39点がF2.8とF5.6光束のクロス。EOS 5D Mark IIは、全15点のうち中央1点がF2.8とF5.6光束のクロス。EOS 7Dは、全19点すべてがF5.6光束のクロス、中央1点がF2.8光束のデュアルクロス。EOS 60Dは、全9点すべてがF5.6光束のクロス、中央1点がF 2.8光束のデュアルクロス。EOS Kiss X5は、全9点のうち中央1点がF2.8光束のクロス。

EOS 5D Mark II

EOS 5D Mark II

EOS 7D

EOS 7D

EOS 60D

EOS 60D

EOS Kiss X5

EOS Kiss X5

※2 AFセンサー

被写体検出能力とピント精度を左右するAFの心臓部。EOS -1DMark IVでは、それまで苦手としていた低輝度・低コントラストという状況下でも、高い被写体検出能力と精度を発揮するAFセンサーを採用している。

EOS-1D Mark IVのAFセンサー

EOS-1D Mark IVのAFセンサー

※3 AIサーボAF(AIサーボAF II)

過去の測距データから動体の速度と距離の相関関係を求め、測距誤差を補正しながら演算して、次の瞬間の位置を予測するAF機能。さらに、新開発アルゴリズムを搭載したAIサーボAF IIでは、プロの実撮影環境で得たデータをもとに、誤差が疑われる測距結果を的確にチェック。被写体の動き出し直後の測距結果からでも予測制御に入るので、動体を瞬時に追従する。

※4 AFカスタマイズ

一般的な撮影シーンにおいて、最も使いやすい設定を初期設定に定めているが、特殊な撮影意図や例外的なシーンにも対応するため、EOS-1D Mark IVや1Ds Mark IIIのハイエンド機ではカスタム機能を用意。AIサーボAF時の被写体追従敏感度や測距点選択特性、AFフレーム領域の拡大や任意選択できるAFフレームの制限など、フレキシブルな対応が可能。

多点化・クロス化・高コマ速化で快速・快適な撮影を目指すキヤノンのAFテクノロジー

「快速・快適」というモットーのもと、「撮りたいものに瞬間的にピントを合わせる」ことを意識しながら、AFの開発を進めてきました。中央1点の測距点でピントを合わせることから始まり、3点、5点、7点、9点、19点、45点と「多点化」の方向で進んできています。プロ用の機種では最多の45点、普及帯の機種でも測距点を増やす方向にあります。

また、弊社製品の特長の一つ「クロスタイプセンサー(1)」は、AFセンサー(2)のある測距点に対して、横線検出センサーと縦線検出センサーを十字に配置することで、さまざまな被写体に対応することができます。今後、できるだけ多くの測距点に採用していきたいと考えています。

もう一つの特長的な機能として、動体予測のAIサーボAF(3)が挙げられます。縦横無尽に動いている被写体に対してのピントの追従は、一眼レフユーザーからの強いニーズがあり、弊社としても力を入れて開発に取り組んでいる機能の一つです。当然、単純にAFだけでなく、「速いコマ速」も求められ、現時点ではEOS-1D Mark IVで約10コマ/秒の高速連続撮影が可能です。

「動いている被写体でも、ファインダーでしっかりと観察しながら撮ることができる」というのが、弊社AFの多点化、クロス化、高コマ速化の開発の狙いであり、進化の歴史です。

精度を高めるF2.8光束と検出範囲が広いF5.6光束

弊社のデジタル一眼レフは、F2.8とF5.6の2種の光束を使用しています。前ページでご紹介させていただきましたとおり、F2.8光束を利用した方がより精度の高いピント検出ができます。では、F2.8光束だけでよいかというと、そうではありません。

F2.8光束は、口径が大きいため光学的に明るく、より暗いところまで測距できます。また、三角測距の原理で基線長を長くとれるため、より精度よく測距できるという特長があります。しかし検出範囲が狭いため、焦点が大きくずれている場合は、サーチ動作になりやすく合焦に時間がかかることがあります。

一方、F5.6光束は、レンズを選ばないというメリットがあります。また、センサーが検出する距離範囲が広いので、至近側から遠方側まで、より被写体を補足しやすくなります。

このように2種の光束を使うと補足性能が高められ、例えば、F2.8の明るいレンズを着けたときでも、大ボケ(大デフォーカス)のときはF5.6光束で検出させ、その後、F2.8光束で追い込むということが可能です。

用途に合わせ、明るさや焦点距離の異なるさまざまなEFレンズ、EF-Sレンズが用意されていますが、このような光束の使い分けによってAFを実現していることは、一眼レフEOSの大きな魅力になっています。

カメラごとに適した配置と構成でより快適なAFが可能に

上位機種では、さまざまな構図で撮りたいというニーズから、周辺までクロス測距点を配置。またEOS-1D Mark IVでは、45点のAFフレームのうち39点にF2.8対応の縦線検出センサーを使っています。ハイエンド機の使われ方から考えると、明るいレンズを使うことが想定されるので、この方が有利だと考えています。

エントリー機のEOS Kiss X5では、中央は横線検出のF2.8光束に加え、F5.6光束でも横線検出、縦線検出のクロス測距点を採用しています。ユーザー層を考えると、F5.6のレンズを着けることが多いと想定されるため、カメラとレンズの組み合わせや使い方などを考慮した上で、最適だと思われる構成にしています。

蓄積した膨大なデータによって不規則な動きも快速・快適に合わせる

動いている被写体を撮影する際に便利な動体予測AIサーボAFでは、過去、複数回分の測距データの履歴を見て、「次の瞬間の位置」を予測しています。位相差検出では、レリーズをしてから主ミラーとサブミラーを上げ、露光するまでにタイムラグが発生するため、撮る瞬間には測距ができず、被写体が動いてしまいます。コンパクトデジタルに比べてデジタル一眼レフは被写界深度が浅いので、タイムラグによって被写体が動いてしまう量は無視できません。さまざまなシーンの、さまざまな被写体の、さまざまな動きの中で、レリーズ時のタイムラグによって動いてしまう量を予測しながら、いかに快速・快適にピントを合わせ込むか。動体予測の難しい点ですが、弊社では長年蓄積したデータによって、多様な被写体に対して最適に合わせるアルゴリズムを持っています。これは一眼レフEOSの特長であり、資産です。

さらに、カメラのクラスによって、使用目的・使い方が異なります。プロの写真家が使うことが多いEOS-1D Mark IVなどのハイエンド機では、好みによって設定をカスタマイズ(4)できます。EOS Kissシリーズのユーザーはわざわざ細かな設定をしなくても、購入したらすぐに使いたいという方が多いので、万人向きの設定にするなど、各クラスに合った動体予測を提供しています。

性能を確実に上げるための課題と夢のAFテクノロジーの開発

特に動体予測に関しては、ユーザーの方たちのニーズがどんどん高くなってきていると感じています。撮像素子の解像度が上がったことで、撮影した画像データをより大きくプリントできるようになりました。そのため、ピクセル等倍で見てもピタッとピントが合っているようなAF機能を提供しなくてはなりません。しかし、使用される温度環境を考えたとき、常にピントを100%合わせることは技術的に困難を極めます。ただ、それを可能な限り100%に近づけられるようにしたい。どんなに無理な撮り方をしても、ユーザーの意図を汲んで正確にピントを合わせられるAFの開発は、今後も課題として取り組むべきことだと考えています。

もちろん、動画撮影に関してのAF性能の向上も意識しています。「静止画ではきびきびとピントが合ってほしいけど、動画では滑らかに合わせたい」というように、静止画と動画では求められる動きが正反対なので容易ではありませんが、それぞれの撮影機能をどのようにブラッシュアップしていくか、さらにチャレンジしていきたいと思います。

45点エリアAFとクロスタイプセンサーによって、構図の自由度が高まり、写真の可能性が広がったのと同様に、近い将来、ピントを合わせたいと頭で思った部分に操作なしで合わせられるような、誰もがあっと驚く「夢のAF」を実現できるように、開発に尽力していきたいです。